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俺は、その女を知っている。というかクラスメイトだ。
蒸し暑い今日でも、長袖の制服を着ていて、腕を組んでいた。
学校でも有名な金持ちのお嬢様で、鼻につく性格から割と女子から嫌われていた。
パソコン室の教壇の方からゆっくりと現れた女に、俺は驚いていた。
「げっ、『奈良橋 歩美』っ!」
「あら、あなた……誰かしら?」
「誰って、俺は……」
「庶民に興味はないわよ、それより磯貝 杏那。やっと見つけたわよ!」
「相変わらずね、デコちゃん」
杏那は、どうやら歩美と知り合いらしい。というか俺を、無視しているのか。
なるほど、確かにデコが少し広いのが歩美の特徴ではあるが。
「あら、あんたがちやほやされているの、おかしいのだけど?」
「あなたの方がはるかに性格悪いんじゃない、デコちゃん」
「な、何よ!何よ、何よ!あんこ餅っ!」
金切り声のように高い声で、悔しさを表す歩美。
おい、『あんこ餅』って杏那のことか。一瞬なんのことか、よく分からなかったぞ。
「しかも男と一緒とか、男嫌いのあなたにしては珍しいのではなくて」
「別に、男嫌いなんか言っていないわよ」立ち上がって、杏那も睨み返してきた。
二人共、強気の女だ。歩美の性格もかなり浮いているが、杏那も強気だ。
「今度の中間試験、次こそは歩美が勝利して差し上げますわよ!」
「出来るわけがないでしょ!デコちゃんごときに」
「キーっ!ムカつくわよ!なによ、あんこ餅!」
「あたしこそムカつくわよ!行きましょ、和成」
立ち上がった杏那が、座っている俺の手を引いてきた。
引いた手が、俺を無理やり立ち上がらせた。
「おい、ちょっとちょっと……」
「行くわよ、なんかムカついてきた」
「わ、わかったよ」
結局、怒り出した杏那は不満そうに出て行った。
そのまま、俺と杏那はパソコン室を後にした。




