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その日の夜、俺は杏那と道に帰っていく。
一応夜の十時を過ぎると、学生服を着たままいると店から追い出されてしまう。
警察と店の決まりで、それまでにゲーセンを出ないといけないのだ。
夜も九時半を回ると、だいぶ暗い。車も少ないし。街の灯りも大体消えていた。
「ああっ、超悔しいっ!」
「でも、いいところまでいっているよな。
初めてわずか十日弱で、乱入台に入り有段者相手に四ポイントとったし」
「でも負けるのは嫌っ!」
「だけど、五百円までな」
「ううっ、それがきついのよね」
杏那が、辛そうな顔を見せていた。
「ねえ……なんであたしは、いつも最初のポイントを先制されるの?」
「うーん、入りが緊張しているからだな」
「緊張?」
「うん、杏那の顔が最初は怖いんだけど」
杏那をゲームの横でやっている姿をいつも見ている俺が、見たままを正直に口にした。
これは、今に始まったことではないのだが。
「あたしの顔が怖い?」
「緊張が顔に出ているし、戦い方も最初はガチガチ。ミスは多いから、大体最初の一本目は落とす」
「ううっ、じゃあどうすればいいの?」
「数やるしかないが……お金に限りもあるけど」
杏那には、五百円の上限を与えているのだ。
ただ、この上限を超えると杏那がいろいろとリアルの生活で無理をしそうだ。
それでなくても、杏奈の家はほぼシングルマザー状態で裕福ではない。
「ねえ……」
「数をこなさないから緊張してミスをする。
当然数をこなせば、自信がつく。
ただし、予算は有限で……後は」
「和成?」考え込む俺の顔に、覗き込んだ杏那。
そしてその可愛らしい顔をはっきりと見て、俺は思わずのけぞってしまう。
「あっ、悪い」
「どうしたの?」
「考え事だ、そうだ!」
そんな時、俺は杏那の制服を見てあることを閃いた。
「何?なんかあるの?」
「杏那、明日の昼休み、飯食ったら俺に連絡をしてくれ。行くとこがある」
「なに、それ、どこなの?」
「お前の自信を、回復させる場所だよ」
俺はそう言いながら、怪しく不敵に笑っていた。




