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今日は十三夜、月が綺麗な満月だ。
だいぶ暑さも和らいで、白いシャツも夜になるとだいぶ寒く感じる時期だ。
秋が確実に迫っていた、この日。季節をあまり感じないゲーセンの中に俺はいた。
あまり金がないので、乱入台をぼんやりと眺めていた。
木曜日である今日は、杏那のバイトの日でもあった。
あったが九時で終わったバイトを切り上げて、ゲーセンにいた。
「杏那、大丈夫かよ?」
「大丈夫、今日はママもいないし」
そして白い半袖シャツの杏那もまた、ゲーセンの乱入台を眺めていた。
手には茶色い紙の袋、そこにはパンが入っていた。
バイトで作った失敗作のパンを食べながら、眺めていた。
「ママねぇ……」
「ねえ、だいぶ強くなった?」
「うん、あの道場で学んだことは生きているようだな」
「攻撃間合い……でしょ」
杏那は学んだ、空手道場で学んだのは相手との位置。
それはリアルでも、ゲームでも同じ。
むしろゲームでは、もっと駆け引きが重要になる。
「間合いを制する者が、すべてを制す」
「なにそれ?攻略本の受け売り」
「なんだ、知っていたのか」
「うん、ちゃんと見ている。ほら」
杏那はベンチの隣に置いたカバンから、『リアルファイター5』の攻略本を取りだした。
「あれ、写真で出ているのに意味があったのね」
「当たり前だ、ほかのキャラの間合いもわかってきたか?」
「うん、アーケードモードなら誰でもクリアできそう」
「それなら、乱入台だな」
「いよいよカードね」杏那は近くに有るカード自動販売機を見ていた。
カードが売られている、ほかのゲームのプレイヤーカードも売っていのだ。
「いや、必要ない」
「えー、なんでよ?」
「強くなるだけなら不要だ。それに五百円あるならできるだけ、練習に使ったほうがいい」
「でも、なんか持っているとプロっぽくない?」
「そんなことない、それに台が空いたぞ」
「じゃあ、乱入してくる」
杏那は紙袋を俺に置いて、そのままパンのクズをかじりながら乱入台に挑んでいった。




