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朝ごはんは、いつも俺の母が用意してくれる。
俺の父親は、朝から出かけていた。今日は、休日出勤で本社勤務らしい。
母親も車で、駅まで送り迎えをする。
そんなわけで、家には俺と杏那と祈里で留守番中だ。
母親がいないので、すぐに外に出ることはできない。
「今日は、夕方には帰らないと」
「バイトだよな、五時からだっけ?」
「うん」杏那の時間は、最初に確認していた。
そんな杏那はゲームをしていた。俺と『リアルファイター5』をしている。
リビングの後ろテーブルには、祈里がいる。ノートを広げてペンを握っていた。
たまに、こっちの方を見ているようだけど。
「祈里、部屋で勉強したほうがよくない?ここ、うるさいし……」
「いいの、こっちのほうが集中できるから」
いや、俺が気になるんだよ。あの話もできないし。
そう言いながらも、ゲームでは俺は手を抜きながら戦っていた。
杏那は『レイナ』を使い、俺はランダムでいろいろ使っていた。
「久しぶりに杏那と戦うが、だいぶ強くなっているな」
「そう、ありがと」杏那は、ちょっと照れくさそうだ。
最初の頃と比べると、あからさまに動きがいい。ぎこちない3Dの操作も手馴れていた。
「あっ、ちょっとトイレ!」
そんな時、テーブルで勉強をする受験生祈里が立ち上がった。
そのまま祈里は、トイレに向かった。
コントローラーを持っていた俺は、杏那と二人きりになった。
キャラクター選択で、杏那は『ユズ』を選ぶ。
ゲームの音楽だけが流れ、俺は杏那の顔を見ていた。
俺はそんな杏那を見て、覚悟を決めて口を開いたのだった。
「杏那、あのさ……」
「なにかしら?」
「まさか、あのタンスの中身……」
「見たわよ、ちゃんと!」杏那は軽蔑する目で、俺を睨んできた。
やっぱりな、と俺は女の子に見られたお宝を後悔していた。
もちろんそこには『リアルファイター6』で人気のある『レイナ』のお宝、あの画像のシロモノもあった。
「でも、男の子だからね……しかたないわ」
だけど杏那は時折、悲しそうな顔を俺に見せていた。
やばいな、相当哀れだと思われているだろうか。
クソッ、あのお宝、そうじゃなくて、アレを、アイツのことを話さないと。
「杏那、それより今日の予定だけど夕方まで時間あるよな?」
「え?」
「母親が帰ったら、一緒に出かけないか?」
俺は思わず、誘っていた。それを見て、杏那はじーっと俺を見ていた。
「その前にキャラ選んで!」
画面では、気づいたらキャラクター選択時間は0になっていた。




