066
夜、俺らは自宅に戻っていた。
俺が杏那を呼ぶ理由は、たった一つしかない。
それは家庭用ゲーム機で『リアルファイター5』の、技を覚えるためだ。
あのあと、レイナでエンディングにたどり着いた。
コンピューター戦では、『マジカルガン』だけで勝てる。そのハメを覚えた。
家に戻ったら、リアルファイター5でトレーニングだ。
父親がお笑い番組を見ていたが、俺たちの帰宅と同時にリビングのテレビを占拠した。
実は父親の部屋には、パソコンがあって父親はそれでもテレビが見られるので問題はない。
いきなりの来客だけど、母親も父親も理解をしてくれた。
そして杏那は、他のキャラクターのコンボ練習をしている。
リビングでは『リアルファイター5』が画面に映っていた。
トレーニングモードで、ボクサー『ジョニー』のコマンド練習をしていた。
「あいかわらず、練習させるのね」
「いろいろと、今日はお金を使ったから」
今日は初めて、お金をいっぱい使わせた。
杏那の財布事情は良くないことは、俺も知っていたがあえて使わせた。
今日は一日で、三千円も使わせてしまった。
それでも、杏那は黙々と俺の言うとおりにやってくれた。
「でも、泊まりとか……お兄ちゃん、いい?」
「なんだ?」祈里が腰に手を当てて、俺に聞いてきた。
「磯貝さんは、お兄ちゃんの部屋禁止ね」
「え?な、なんで?」首をかしげる杏那。
「私は、お兄ちゃんが好きだし……そうじゃなくて、磯貝さんと私が寝る」祈里の顔が、なんか赤いぞ。
「まじか?」
「男の人の部屋に、女の子を泊まらせるわけにいかないでしょ」
「う、確かに……」
「どうしたの?」
そんな兄と妹の会話をしているが、聞こえないのか杏那が振り返った。
コンボの練習『ジョニー』が、ようやく終わったようだ。
「ねえ、そんなことより、私と戦わないですか?磯貝さん」
祈里は、杏那のそばについてコントローラーを握っていた。
「いいわよ、今度こそ勝つんだから」
杏那も息巻いて、トレーニングモードを終了させていた。




