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杏那のプレイヤースキルは、この八日ほどでだいぶ上昇した。
動き、立ち回り、ガードに、攻撃。
ゲームの操作で驚く程の進歩が、杏那からはっきり見えた。
何度も負けて、コンボの練習もしまくって、そしてアーケードモードをクリアした。
そして、とうとう二十人目のクリアをしていた。
サイクロプス・改も、追加された技の対応さえ完璧にこなす。
ガード不能の『グランドラリアット』も、しゃがんで避けて技の切れ目に攻撃を加えて倒す。
これはキャラ性能関係なく、同じ対応でサイクロプス・改を倒してエンディングが画面に流れていた。
「これで二十人目よ」
「いい二千円になったな」
「今日は随分、使わせるのね」
「今日だけだ」二十人連続でクリアしているから、流石に指が痛そうな杏那。
だけど、未だに『レイナ』には手を出せない。
俺と杏那が座っている初心者台は並んでもいないし、ほぼ杏那の占拠状態になっていた。
「『レイナ』って見た目は可愛いけど、弱いんでしょ」
「否定はしない。乱入台で使っていれば、相手のヘイトを上昇させるキャラだし」
「見た目は、可愛いんだけどねぇ……」
「それでも、小さい体なので攻撃があたりくい」
「ちょっと、お兄ちゃん」
そんな中、初心者台に祈里がやってきた。
さっきまで乱入台で、余裕の五連勝をしていた俺の妹。
容赦ないスタイルで、乱入する勇者がいなくなったのでクリアして俺たちの方に来ていた。
ついでに自販機で買った祈里はジュースを二本持って、俺と杏那に渡す。
「おお、ありがとな」俺は素直に、祈里へ感謝を述べた。
椅子に座っている杏那は、炭酸ジュースを受け取り困惑の顔を見せた。
「あの、お金……」
「いいわよ、別に。タダであげるわ」
「その金、電車賃の余りだろ」
「う、いいじゃない」口を尖らせて、祈里は自分にも買っていたペットボトルのお茶を飲んでいた。
「そんなことより『レイナ』を使うことに迷っているの?」
「うん、なんかリーチとか短いし。威力も低いし」
「手数勝負だからね、全キャラ最弱のパワーで、ダメージも低い……」
「そうね。まあ、それだけ考えられることは、『リアルファイター6』を研究している証拠よ」
「研究?」
「そうよ。いいプレーをしたいのなら、いいプレーも見ないとね。杏那さん、どいて!」
そう言いながら祈里が、杏那をどかして代わりに座った。
俺は立ち上がり、杏那は祈里の隣の2P側に座らせた。
「いい、今からレイナでクリアするからそこで見ていなさい」
そういいながら、祈里は優雅に百円を入れていた。




