061
アンソニーは特殊なキャラだ。
ラスボス以外の全てのキャラを真似る特性があった。
ただ、見た目は全く変わらないので、赤タイツ男にしか見えない。
だけど、上級者ともなれば最初の構えだけでアンソニーが誰なのかが分かる。
結局姿だけに惑わされなければ、攻撃パターンはそのキャラに準ずる。
ユウト同士の戦いも、杏那は対応していた。
見た目だけに惑わされなければ、あくまでユウト。
ユウトとユウトの戦いでもパターンが決まっていれば、負けることはなかった。
そして三戦目はラッキーな相手で魔法少女の『レイナ』、四戦目も、慣れている女キックボクサー『ユズ』だ。
いずれも勝利を収め、最後のステージになっていた。
「ゲーセンで、いきなりラストに来たね!」
「ああ、ウチのゲーム機のレベルは難易度一段階上だから」
「それにしても、ユウトって普通に性能よくない?
なんで最初に、あたしに言ってくれないの?」
「性能いいのは、はじめの方にも言ったけどな」
ユズが可愛いとかで、選んだのは杏那だろ。などと思いつつ、俺は苦笑いを見せていた。
「て、ラストもこいつなわけ」
最後のステージは、青い巨人が出てきた。
それは『リアルファイター5』のあのサイクロプスによく似ていた。
「これって……」
「『サイクロプス・改』」
「何よ、改って?」
「そのままの意味、ゲーム設定だとドクタージーが行う人体実験で……」
「うんちくはいいわ、前のやつと何が違うの?」
「ほぼサイクロプスと一緒だが……」
サイクロプス・改と、ユウトの戦いが画面で始まっていた。
俺との会話を切り上げ、杏那はレバーを握っていた。
リアルファイター5でも、サイクロプスは杏那が一番手こずった相手だ。
家でやったゲームも、コンテニューが一番多いのがサイクロプス。
しかも、サイクロプスとの一部の技が変わっている。
「相変わらず、間合いを離す技が多いのね」
ユウトの間合いを詰める技を、ほぼ知らない杏那。
回り込みを使いながら、サイクロプス・改の間合いを詰めていく。
それでも難易度ハードでシビアなタイミングを戦い抜けた杏那は、サイクロプスの攻撃にも対応していた。
「やっぱりノーマルなら、動きが違うな」
なれないキャラとのハンデを背負っているだけに、一進一退だ。
互いに二ポイントを奪い合い、最後の勝負になっていた。
ユウトの使える技を見つけた杏那は、攻撃を組み立てながら戦う。
だけど、サイクロプスの重いパンチが命中した。
ガードが僅かに間に合わなかった。思いっきり吹き飛ばされる。
そして、サイクロプス・改はぐるぐると回り始めた。
「あんな技……あったかな?」
そう、サイクロプスには唯一ない技、正確には『リアルファイター6』で追加された技だ。
離れると使ってきて、そして腕をコマのようにグルグル回してきた。
コマのように回転ながら、杏那のユウトに向かって来た。
(とりあえずガード、中段を)杏那は、ガードを試みた。
だが、そのガードを吹き飛ばして、ユウトは倒された。
ノックアウトの声が聞こえて、ユウトの敗北が決まっていた。




