表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たった一ヶ月で初心者女子高生が格闘ゲームを極める話  作者: 葉月 優奈
一話:弟子入り
6/152

006

学校の歩道を歩いている、男が多いこの学校ではレアな三人組の性別構成。

ただでさえ、ここは女子の多い学校だ。

おまけに今日は始業式、初日からこれだと明日……というか来週からの二学期が心配になるな。


すれ違う女子と、磯貝が足を止めて社交的に会話をしていた。

笑顔と愛嬌を振りまいて、俺と由人はほぼ眼中に入っていない。

磯貝が足を止めたので、おいていこうとしたが由人がなぜか俺を呼び止めた。


「なんでだ?」小声で言う。

「馬鹿、俺たちに興味を示しているんだぞ。天下の磯貝さんが!」

「だけど、俺には興味ないし」

「あんな可愛い子が?滅多にないぞ」

「そうか?」

由人の言葉の意味を、俺は全く理解できない。

会話もそこそこに、磯貝が切り上げて俺たちのほうに向いていた。


「さ、行きましょ!」

「ああ、人気あるからね。磯貝さん」

「そんなんじゃないけど」そこはしっかりと謙遜する磯貝。

由人と磯貝の会話を見て、カバンに肩を担いだまま歩き出す。


それにしても周りの視線が痛い。

周りの女子が、なんか俺たちに嫉妬しているような冷たい眼差しを送ってくる。


「でも磯貝さんが意外だな、俺も『リアルファイター4』までやったけど。

リアルファイター4なら、俺が教えてあげてもいいよ」

「4って?」由人の言葉に、キョトンとした目で見ていた磯貝。

「ナンバリングだ、おそらく俺がゲーセンでやっていたのは6だから……」

「そう」磯貝は、再び俺の手を掴んで離さない。

なんだかすごく大事なものを手放さないように、しっかり俺の腕を掴んでいた。


「あの……磯貝さん」

「なに?」

「いい加減、手を離してくれない?」

「あたしを、弟子にしてくれたらいいけど」

「だから弟子って、本当にいいの?」

『リアルファイター6』は、どう考えても女の子がやるゲームではない。

見た目以上にグロテスクで、SE(効果音)に骨の折れるような音が聞こえたりもする。

あからさまに男子向けで、上級者向けのゲームだ。

それに磯貝はゲームの名前さえ知らないようだし、単なる勘違いかと思った。


「ねえ、磯貝さんってゲームとかやるの?」

「アドベンチャーとか携帯なら、やっているわ。もちろんお金は、使っていないから地味だけど」

「携帯ゲームはおいといて……」

「でも、今は特にやっていないわ」

なんだか会話も全然、噛み合わない。

本当にゲームをやりたいのか、疑問が増えるばかりだ。


「とにかく、あたしはゲームが上手くならないといけないの!」

右手を添えたまま、急に立ち止まった。そのまま磯貝は、スマホを取りだした。

ピンクのスマホケースに入った女の子らしいスマホを操って、俺に画面を見せてきた。

いや、俺に見せつけてきた。だが、その画面を見て俺の表情が赤くなっていた。


「それを、いつの間に!」

「お前、まだそういう趣味があったのか!」由人も声を上げた。

「いや、それはその……」

それは俺が、大人の本屋に向かっているところだ。

真っ黒い暖簾をくぐりぬけ、満足そうに二冊の本を持っていた。


「なんでその画像を……」

「あたしの情報網を舐めないでもらいたいわね。ほら、これもあるわよ」

磯貝は、さらにスマホの画面を見せてきた。

俺の顔が、みるみる険しくなって赤面していった。


「なになに、エロ本か」

「だからちがって……これはリアルファイターの……」

「へえ、魔法少女趣味があるのね。このロリコンっ!」軽く罵倒する磯貝。

「もし、教えないのなら、この画像をクラス全員に送信するわ!」

その画像は、紛れもなく俺だった。

俺のやっているゲーム『リアルファイター6』の、レイナという魔法少女の同人誌を買っている俺の姿だ。

しかしそれは、紛れもなく成人向け本なわけで……いろいろエロい。


「わ、わかった!それはやめてくれ!」

「なになに、聞こえないんだけど?」

「弟子入り、認めてやるから。その画像だけは……なっ」

「あら、嬉しいわ。分かればいいのよ、じゃあよろしくね」

こうして、俺は『磯貝 杏那』の弟子入りを認めるしかなかった。あの画像と引き換えに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ