059
俺は杏那のセコンドだ。
初心者台で、貴重は百円を入れる杏那。
選ぶキャラはユズ……ではなく別のキャラだ。
不満そうな顔で、杏那が『リアルファイター6』を淡々としていた。
「コントローラーとレバーの操作は、全然違う。慣れるまで、かなり難しいから」
「そうね、ユズは本当に禁止なの?」
「禁止」俺はそれを曲げない。
「でも、大会は一キャラしか使えないんでしょ」
「うん、エントリーした時にキャラクターも決まる。
エントリー時に決めるキャラの変更をすれば、反則負けになる」
「だったら、ユズだけに絞ったほうが良くない?時間もあまりないんだし」
「いや、だからこそだよ」
俺はそう言いながら、キャラクター画面を見ていた。
「最初は『ユウト』から。
次第に難易度もあげるから……無論、全キャラでクリアな」
「えーっ、全キャラでやるって無茶よ!」
「今のお前ならそんなに難しくはない、あくまで相手はコンピューターだし。
それともう一つ、コンテニューも禁止な」
「わ、わかったわよ!」
やはり不満そうに、杏那は渋々『ユウト』を選んだ。
武道家の青年風の男が選ばれて、杏那が「うわっ!」と漏らす。
不満たっぷりで、文句タラタラ、やる気もあまりない杏那。
だけど、三分後……
「なに、これ、強いんだけど」
ゲームをやりながら杏那は、驚きにも似た歓声を上げていた。
画面では、杏那が操るユウトの快進撃が続く。
それもそのはず、ユウトはユズよりも攻撃力がずっと高い。
おまけにリーチも長いので、当たりにくい攻撃もしっかり当たるのだ。
もともとユウト自体、初心者向けのキャラ。
ユズよりも主力技は全て使いやすく、中には神性能の技もあったからだ。
このリアルファイター6も対戦相手は八人、そして三ポイント制である。
だけど、ほぼ一本も失わずに次々と進んでいった。
パンチとキック、それから投げ技。難しいコンボは知らない。
たまに、ゲーセン筐体の前に書いてあるコンボ表を確認する程度だ。
あまり技は知らなくても、次々と敵を倒す。
そして、五人連続でほぼポイントを失わずに進む。
六ステージ目のライバルキャラ、『ジョニー』が出てきた。
「これってもしかして?」
「そう、こいつも覚醒している」
画面にいるボクサーの男は、赤い光の膜のようなもので覆われていた。




