058
『リアルファイター6』の乱入台はこのゲーセンには、三セットあった。
乱入台は、当然稼働していればデモ画面ではなく相手の画面になっていた。
祈里が戦っている乱入台では、『ユウト』を使っているようだ。
「うわー、レバー、レバー、久しぶり」
ゲーム筐体のレバーを、ゲーセンに初めて来た子供のようにガチャガチャと回す杏那。
そのゲームは、『リアルファイター6』じゃないけどな。
奥では祈里が、ゲーセン台の椅子に座っていた。俺らと違って乱入台の方だ。
「あの、和成……」
「なんだ?」
「祈里ちゃん、カード入れなかった?」
「ああ、入れたよ。一応、俺も持っているけど」
俺はやはり、財布からリアルファイターのプレイヤーカードを取り出していた。
カードには、持ちキャラである中国拳法家老人の『ファン・ジャンチー』がポーズをとっていた。
「カードって、あると何がいいことあるの?」
「うーん、ただの自己満足かな。画面を見て!」
俺が見ている祈里のゲーム筐体の画面には、戦歴と称号が書かれていた。
ちなみに祈里は、持ちキャラでもある『ユウト』を使う。
同じ顔だけど、黒い同義の2Pカラーで、浮き輪に足ひれ。
「あの『覇王』とか、2213勝65敗とかは?」
「あれが、称号。このカードを入れて戦うと、戦歴が記録されるんだ。
一定の勝率、または勝利数で称号が変わっていき……」
「何、あの格好?浮き輪している!」
「称号によって得られる、カスタムアイテムだよ。
称号が、高ければ新しい衣装やアクセサリーをゲットできる」
「うわー、すごいね。欲しいかも!」
「そうだな、だけど……」杏那が感嘆の声を上げる中、俺の前にいる祈里はいともあっさりと倒していた。
「ねえ、入ってこないの?杏那?」
祈里は杏那に挑発していた。杏那は、座った祈里をじっと見ているだけだ。
杏那が行きたそうだが、それを制したのは俺だ。
「杏那、お前はまだ初心者台な」
「え?なんでよ?」
不満そうに言う杏那だけど、俺はそのまま隅にある初心者台に追いやった。
祈里は残念そうに、乱入台で再び乱入されて戦っていた。
「実は杏那に、これからやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいこと?」
「ユズ禁止令だ」
そして初心者台に座らせて、俺は杏那に言い切っていた。




