055
あれから三日、俺は今日も杏那を家に入れていた。
昨日は杏那のバイトの日だから、練習できる日は一日少なくなっていた。
俺のリビングに、杏那の姿がいることが次第に慣れていた。
そして、コントローラーを持って『リアルファイター5』をやる姿も日常的なものになっていた。
俺はほぼ毎日、杏那のゲームをソファーの上で見守っていた。
たまに、コンボのことを聞かれるがそれ以外のアドバイスはあまりしない。
『ユズ』を使う杏那は、毎日戦っているので手馴れていた。これは祈里を教育した時と同じだ。
ゲーム画面は、ラストステージ。つまりラスボスのサイクロプス戦だ。
すでに二ポイントリードしているユズ。そしてこの戦いのユズが有利に進めていた。
「この技で、トドメっ!」
そして、ユズは三ポイント目あっさりと奪った。
「ふー、またクリアしたわ」ソファーの前に座る杏那が、汗を拭う。
「ようやくノーコンテニュークリアできたな」
「これ、ノーコンテニュー?」
一瞬本人は戸惑っているが、一部始終を見ている俺は、ノーコンテニューだということを知っていた。
「ああ」俺が頷いて、杏那の表情が明るくなった。
「でも、だいぶわかってきたわね」
「戦っていると、コンピューターは決まった動きをする」
「そうね。早かったり、リーチが長かったり、ハメ技のように出の早い技を連発するけど……」
「パターンを読めば、難しくない」
「そうね」杏那は、スタッフロールをスタートボタンで飛ばす。
何度目のエンディングを迎えているので、その点も慣れていた。
「でも、もっとダメージを喰らわない方法で行かないとね」
「一応記録がある」
「クリアタイム?」
「うん」ゲーム画面がランキングを表示した。
それは、アーケードモードのクリア時間を表示していた。
「え、五分?」
「これは俺が二年前に出した記録」
「あたしは九分もかかっているし……すごくない?」
「もちろん全てのポイントをとっている。キャラも『カムチャット』じゃないと、絶対にでないタイムだ」
「すごいわね」
「コンピューターは決まった行動パターンがあるから、ハメれば大体これぐらいのタイムは出る。
だけど、ユズの場合はハメ技でも七分ぐらいが限度じゃないかな?」
「な、七分……それでもすごいわね」
「ただいま」そんな俺と杏那がゲームをしている最中、祈里の声が玄関から聞こえてきた。




