051
杏那はさらに二十連敗をした。サイクロプス相手で、既に二十五連敗中だ。
コンテニューに百円かかるゲーセンだったら、これだけで二千五百円だ。
決して裕福ではない杏那には、そのお金は重くのしかかっていく。
俺はずっとソファーで、言いたいことを我慢するしかなかった。
現状はそれでも、少しずつだけど惜しいところまでいくようになった。
(あとちょっと、あの技だけなんだよな)
サイクロプスのパンチも、キックも対応が早くなった。
まだ相打ちもあるけど、攻撃は早くなっていた。成長の証が見えていた。
間合いの距離も分かり、後ろに下がるテクニックも見せた。
だけどその後ろに下がるという対処法は、ここでは正しくない。
「ああっ、また岩投げてきた」
サイクロプスは距離を取ると、必ず岩を投げてくる体。
このロックブラストは、『ガード不能技』というカテゴリー。
ガードをしても、無視してダメージを与えてくる。つまり当たってはいけない技だ。
通常、ガード不能技はコマンドが出しにくく、モーションも少し遅い。
また、リーチも短い技が多く当てるのが難しいとされる。
だが、このロックブラストだけは例外だった。
「ロックブラストは、飛び道具だからな」
「知っているわよ」
俺のアドバイスを、杏那は何度も受けて知っていた。
飛び道具ならば、後ろに下がっても喰らう。どんなにガードを固めても、貫通して吹き飛ばされるのだ。
当たれば吹き飛ばされて、間合いが離れる。そうすれば次のロックブラストのモーションに入れる。
では、間合いを詰めて近づけばいいのだけど、意外とモーションも早く攻撃を潰す前に岩を投げてくる。
そもそも、間合いを遠ざけて使うので潰される位置にいない。
『クイーンスタンプ』の距離でも、ギリギリ届くか届かないかという距離だ。
これだけでも十分、極悪な技だ。しかもダメージ値もかなり高く設定されているのでタチが悪い。
一発喰らえば、半分のライフをゴッソリ奪う。
(ロックブラストを使われなければいいけど、相手は間合いを広げてくるし)
再びコントローラーを握り、サイクロプスと戦う。
順調に戦い、なんとか二ポイントを奪った。かれこれ四度目の王手である。
うまい具合に間合いが取れたのと、ロックブラストを使われなかった運も働いた。
(次の戦い……最後)
真剣な顔でコントローラーを持つ杏那は、集中してサイクロプスと戦う。
序盤から間合いを詰めて、半分以上を減らしていた。
だが、ユズのライフもサイクロプスのカウンターを受けて半分になる。
このタイミングで、運悪く重いパンチがヒットした。通常ヒットでももちろん相手を吹き飛ばす。
ダメージを受けてユズのライフは、一気に減ってしまい残りわずか。
だが大きく間合いが広がり、ロックブラストのモーションに入った。
(ヤダッ、また負けるの。それは嫌っ!)
ここまで減らしたのに、ロックブラストをくらって終わりだ。
間合いも離れているので対応しても間に合わない。ガードもできない、後ろに下がっても当たる。
それでも杏那は考えていた、だがロックブラストは放たれた。
そんな時、偶然にも杏那はコントローラーの十字キーの上を二回押していた。
そして、次の瞬間ロックブラストはユズの横を掠めて飛んでいった。
(避けた……の?)
杏那は一瞬、驚いたがサイクロプスの動きが止まっていた。
「杏那、そうだ。一気に行けっ!」
俺はソファーの上に座り、初めて叫んだ。
そして、杏那は迷うことなくクイーンスタンプのコマンド。
それが命中し、後はパンチのラッシュでサイクロプスのライフを全て減らしていた。




