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サイクロプスの壁、それは全てのプレイヤーが一度はぶち当たる壁。
俺はその壁に何度も弾かれた。それぐらいサイクロプスの強さは、チートだ。
だけど、今の杏那には攻略法が必要ではない。
(考えること……自分なりの攻略法を探すこと)
俺は見守るしかなかった。攻略本を、食い入るように見ながら考える杏那。
それは、杏那にとっても弱点を克服する意味を示す。
「よし、じゃあもう一度」
一通り攻略本を見て、再びトライ。
コンテニューをして、六度目の大戦に向かう。
大きなサイクロプスが、再び杏那の操る『ユズ』の前に立ちふさがる。
俺は、ソファーで杏那がどんな考えで戦うか見ていた。
まず、サイクロプスの攻撃だ。大きなパンチ、モーションも早くユズはガードするしかない。
ガードをすれば、ユズはガードごと吹き飛ばされていた。
それを見て、杏那が選んだのは、
(クイーンスタンプか)
ユズは、右足を前に突き出すキックを見せた。
それなら間合いを広げられても、前に突き出すキックが当たる技だ。
キックが当たれば、間合いを一気に詰めていた。
のけぞったサイクロプスは、ガードを入れるがユズの連続ラッシュも決まってサイクロプスの体力を削っていく。
(間合いを詰めるのは正解だが……)
だが、次にサイクロプスのキックが飛んでくる。
ほぼ同時の相打ちだけど、受けるダメージはユズの方が多い。二倍のダメージを食らっていた。
「こいつも強いわね」
一発でサイクロプスの攻撃は、ユズのライフの四分の一をごっそり奪う。
手数的にはユズがあたっていても、ライフはほぼ互角だった。
(やはり相打ちは、ユズが不利。そもそもこいつのキックは、まともに食らってはダメ)
実はこの威力の高いキックこそ、一番カウンターの狙える技だ。
パンチに対応されたとわかれば、後ろに下がってキックを繰り出す。
ユズの攻撃と同士打ちになれば、ユズのライフがどんどん削られて不利になる。
結局、このラウンドもサイクロプスがポイントを奪った。
「なんで勝てないのよ!」
杏那のいらだちは、目の前の画面にいるサイクロプスに向けられていた。
それでも、俺は攻略法をあえて言わない。
(見守るだけの方が、これは難しいな)
しゃべると、うっかり攻略法を言いかねない。
だから必死に口を真一文字に、結んでいた。
杏那も、俺の方に助けを求めるような仕草は見えない。
コントローラーを握り、再びサイクロプスの壁に挑んでいた。




