005
俺は、学校の敷地内を歩いていた。
靴に履き替えた俺と、いつも大体一緒に帰る由人。
俺の隣には、なぜか手を握ったたま離さない磯貝 杏那も一緒だった。
その目の鋭さは、間違いなく彼女のものと一致していた。
だが、俺はやはり不思議だった。
「でも、俺はやっぱりあの日から何も知らなかった。
睨まれることどころか、接点も特になかった気がするけど……」
名前だって今さっき、初めて聞いたような女だ。
目つきが怖くて、恨みがあるような目で俺を見ていた。
あの日の視線と、今の磯貝の視線が重なったが俺に言う理由がイマイチわからない。
「だから、俺の弟子?」
「うん」
「俺じゃなくて?」困り顔の由人は、相変わらず食い下がらない。
実はこの由人には、実際に弟子がいたりするわけだが。
そんな磯貝の視界に、どうやら由人は全く入っていないようだ。
ずっと俺の手を握って、じっと見ていたのだから。
「弟子?もしかして小学生の手懐け方とか?」
「違うわ」
「じゃあ自転車のこぎ方とか?」
「違うでしょ」
「じゃあ、『リアルファイター6』とか?」
「なにそれ?」
「俺のことを、後ろでジーッと見ていたあのゲーム」
「なら、そうね」
「そうって……まじか?」
俺は、思わず驚いてしまった。
磯貝は、普通の女子高生でビデオゲームとか全くやるように見えない。
それを聞いた由人もまた、驚いていた。
「ええっ、磯貝さんゲームやるの?」
「やることになったの!」
由人にはなぜか、半分キレ気味に言っていた。
そんな中でも女子の一団が、俺……じゃなくて磯貝を見ていた。




