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夕方、俺は自宅に杏那を連れて行った。
帰る前に、自宅には連絡をいれた。今日は火曜日で、祈里の方は塾もあるだろうし問題はない。
俺の自転車にある荷台に、杏那を乗せて走っていた。
それにしても二人乗りも、かなり久しぶりだ。中学の祈里以来だろうか。
必死にペダルを漕いで三十分、足をパンパンにしながら俺の自宅に帰ってきた。
家にかえって玄関で、俺の母親が両手を広げて出迎えた。
あいも変わらず天然風の甘い声で、笑顔を見せていた。
「また、連れてきたのね。杏那ちゃん」
「お、お邪魔しています」
「あらあら、ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
杏那は、俺の母親の前で猫をかぶるようだ。
杏那の母親の躾だろうか、優等生な対応を見せていた。
母親がベタベタと、絡んでくるが俺はそれを軽くあしらっておく。
さっさとリビングで、杏那をテレビの前に座らせた。
「やっぱり、リアルファイターなの?」
「そうだな。家庭用ゲーム機はモードも追加されているからな」
リビングで、一個しかないテレビを俺が独占する。
ゲーム『リアルファイター5』を起動して、モードを選択する。
「これって?」
「『トレーニングモード』練習するモードだ、本当は最初に初心者がやるべきだったけど」
この前は祈里が、なぜか最初から杏那との戦いを仕掛けた。
結局、最初の予定だった動きの確認や、基礎動作の練習に時間は使えなかった。
まあ、実戦をかなりやっただけに動きも良くなっているのも事実だが。
「まずは、ユズを選んで」
コントローラーを持った杏那に、キャラクターを選ばせていた。
そして、相手は無機質な銀色のタイツキャラだ。『アンソニー』と言う。
このキャラは『リアルファイター1』のラスボスらしい。
ただ、相手のライフは表示されていない。これがトレーニングモードの特徴でもある。
「練習って?」
「スタート押して、コンボモードを選ぶ」
「うん」杏那は、言うとおりにコンボモードを選ぶ。
「そしたら、右端にコンボが出るからそれを一個ずつ入力する」
「うん、最初はPPね」
技の名前は『ユズラッシュ』、パンチを二回連続で押すと、画面のユズがパンチを二連続で放つ。
入力が成功すると、次のコンボに切り替わった。
「よし、じゃあ、ユズのすべての技の入力を終えるまでな」
「わかったわ」
杏那は素直に、俺の指示に従っていた。




