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竜二の話、それは兄との確執から始まった。
竜二の兄は優秀で、高学歴と高身長だ。
二人兄弟の弟で劣等生の竜二は、家に居場所がなかった。
竜二とは俺がこのゲーセンで、何度か会うことも増えて話すようになった。
最も初めは、ただのチンピラのような不良のような出会いだったが。
「兄は優秀なのに、なぜ俺は何もできないだろう。
俺はずっと思いながら、生きていた。家庭に居場所がなかった」
「だがら、グレたのか。わかりやすい」
「簡単にまとめるとそうだな。だけど俺にとって、それでも居場所がないのは本当だ。
学校を辞めて、今はダチの家にいる」
「家を出たのか?」
「ああ、出たさ。両親は俺に医者をやらせたかったらしい」
「そうなんだ……」
「やっぱ、ダメだ。俺の話はどうしてもつまらない」
竜二が首を横に振って、頭を抱えていた。
「その感じだと、家に帰りたいのか?」
「ああ、帰りたい。本当は俺が悪いのはわかっているんだ」
「そうか……あとは伝える方か」
杏那の父も、そういう伝えるのが苦手なのかもしれない。
だから杏那に難しい課題を与えて、逃げる口実を作った。
家族の話を聞いている杏那は、どう思っているのだろうか。
「伝えるのは、決して難しくないわ」口を開いた杏那。
「杏那……」俺は事情を知って、杏那なりの答えを出そうとしていた。
「磯貝、簡単なのか?」
「難しくはないわ。だって、あなたはゲームの時にいつも迷いがないもの。
迷いなくコンボを決めて、ゲームをしているでしょ」
「ゲームならば、コマンドが決まっているし」
「大丈夫、ゲームの時の迷いがなければ」
杏那は、不意に可愛く笑ってみせた。
その顔に、竜二も思いのほか照れているようにも見えた。
「あ、そうだ杏那!」
「なによ?」
「明日からゲーセン禁止な」
俺は突然、竜二もいる前でそう言い放った。
「えっ?」それは杏那と竜二がほぼ同時に驚いていた。




