041
夜になって、ゲーセンを出た。
ゲーセンには四時間ほどいたので、時間は夜七時だ。
周りはすっかり暗くなり、街灯が灯っていた。
ゲーセンから出て、歩道を歩く。しかも三人で。
「ありがとな、竜二」
自転車を押して歩く俺が、コーラを持つ竜二に声をかけた。
「コーチ代、コーラ一本かよ」
「負けたんだし、文句なしだろ」
「わかっているよ」悪態をつく竜二。
杏那が乱入した後、竜二に乱入する勇者はいない。
結局竜二は、そのままゲームをクリアしていた。
俺はそんな竜二のクリアを、杏那に見せていた。
その後は、小学生がいなくなった初心者台で杏那に練習。
的がわりの竜二が操る『レイナ』で、杏那がコンボを打ち込んでいた。
最後の方は、だいぶ竜二のレイナにダメージを与えられるようになり制限時間内に倒せるようにもなった。
「ありがとう、竜二さん」
「おお、磯貝だっけ?なかなか最後の方は、攻撃がよかったぜ」
「いいえ、竜二さんの本気にあたしは全然歯が立たない」
「あたりめーだ、俺はこのゲーム三年やっているんだしよ!」
竜二は、杏那に筋肉質の腕を見せていた。
言っておくが格闘ゲームに腕の筋肉は全く関係ない、本物の喧嘩じゃないし。
「でもいい練習になった、助かったよ」
「明日も手伝えとか、言うんじゃないだろうな?俺はパスする」竜二が食い気味に断ってきた。
「なんだ?暇じゃねえのかよ?」
「てか、ダリーし!俺は普通にゲームしたいだけだし」
竜二の言葉は、本心だとわかった。俺が知っている竜二という男は、裏表のない人間だ。
「そんなことより、和成」
「なんだ?」
「どうして磯貝を……育てている?」
「ああ、杏那は真っ直ぐだからな。竜二と同じで。
ゲームをやるからには強くして欲しい、彼女がそう願ったから、俺はそれに応えただけだ」
杏那の強くなりたい気持ちは、紛れもなく本物だ。
祈里に何度負けても、何度も向かってくる気持ちの強さ。
杏那の家庭の話は、プライベートなので口外しないでおこう。
「そっか、まあ頑張れや」
「ああ、頑張る」
「でも、竜二さん」俺の隣にいた杏那が、俺のさらに右隣にいる竜二に声をかけていた。
「なんだ?」
「あなたのような、古風なヤンキーって久しぶりに見たわ」
「こ、古風?」
「そう、古風。平成も三十年経つのにこんな古風なヤンキーがいて、面白いわ」
「ば、馬鹿にしているのか?」
「してないわよ、あたしなんかよりよっぽど人間らしい。羨ましいぐらい……」
杏那は、不意に寂しそうな横顔を見せた。
杏那の家の家庭は、崩壊寸前。彼女がここで見せる顔は、家では見られないような顔だ。
「でも、どうしてヤンキーなんかしているの?」話をすり替えてきた杏那。
「知りたいか?」
「そういえば、竜二は俺と会った時からヤンキーだったよな。そもそも今、いくつなんだ」
「十八、行っていれば高三だ」
「行っていれば、中退か?」
「まあ、そんなところだな」
「学校を辞めたのか?」
「ああ、やめた。兄貴がうるさくてな!」
竜二はいつになく、嫌そうな顔を見せていた。
それから竜二は、自分がヤンキーになるまでの話をし始めた。




