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たった一ヶ月で初心者女子高生が格闘ゲームを極める話  作者: 葉月 優奈
三話:コンボ・コマンド
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夜になって、ゲーセンを出た。

ゲーセンには四時間ほどいたので、時間は夜七時だ。

周りはすっかり暗くなり、街灯が灯っていた。

ゲーセンから出て、歩道を歩く。しかも三人で。


「ありがとな、竜二」

自転車を押して歩く俺が、コーラを持つ竜二に声をかけた。


「コーチ代、コーラ一本かよ」

「負けたんだし、文句なしだろ」

「わかっているよ」悪態をつく竜二。

杏那が乱入した後、竜二に乱入する勇者はいない。

結局竜二は、そのままゲームをクリアしていた。

俺はそんな竜二のクリアを、杏那に見せていた。


その後は、小学生がいなくなった初心者台で杏那に練習。

的がわりの竜二が操る『レイナ』で、杏那がコンボを打ち込んでいた。

最後の方は、だいぶ竜二のレイナにダメージを与えられるようになり制限時間内に倒せるようにもなった。


「ありがとう、竜二さん」

「おお、磯貝だっけ?なかなか最後の方は、攻撃がよかったぜ」

「いいえ、竜二さんの本気にあたしは全然歯が立たない」

「あたりめーだ、俺はこのゲーム三年やっているんだしよ!」

竜二は、杏那に筋肉質の腕を見せていた。

言っておくが格闘ゲームに腕の筋肉は全く関係ない、本物の喧嘩じゃないし。


「でもいい練習になった、助かったよ」

「明日も手伝えとか、言うんじゃないだろうな?俺はパスする」竜二が食い気味に断ってきた。

「なんだ?暇じゃねえのかよ?」

「てか、ダリーし!俺は普通にゲームしたいだけだし」

竜二の言葉は、本心だとわかった。俺が知っている竜二という男は、裏表のない人間だ。


「そんなことより、和成」

「なんだ?」

「どうして磯貝を……育てている?」

「ああ、杏那は真っ直ぐだからな。竜二と同じで。

ゲームをやるからには強くして欲しい、彼女がそう願ったから、俺はそれに応えただけだ」

杏那の強くなりたい気持ちは、紛れもなく本物だ。

祈里に何度負けても、何度も向かってくる気持ちの強さ。

杏那の家庭の話は、プライベートなので口外しないでおこう。


「そっか、まあ頑張れや」

「ああ、頑張る」

「でも、竜二さん」俺の隣にいた杏那が、俺のさらに右隣にいる竜二に声をかけていた。


「なんだ?」

「あなたのような、古風なヤンキーって久しぶりに見たわ」

「こ、古風?」

「そう、古風。平成も三十年経つのにこんな古風なヤンキーがいて、面白いわ」

「ば、馬鹿にしているのか?」

「してないわよ、あたしなんかよりよっぽど人間らしい。羨ましいぐらい……」

杏那は、不意に寂しそうな横顔を見せた。

杏那の家の家庭は、崩壊寸前。彼女がここで見せる顔は、家では見られないような顔だ。


「でも、どうしてヤンキーなんかしているの?」話をすり替えてきた杏那。

「知りたいか?」

「そういえば、竜二は俺と会った時からヤンキーだったよな。そもそも今、いくつなんだ」

「十八、行っていれば高三だ」

「行っていれば、中退か?」

「まあ、そんなところだな」

「学校を辞めたのか?」

「ああ、やめた。兄貴がうるさくてな!」

竜二はいつになく、嫌そうな顔を見せていた。

それから竜二は、自分がヤンキーになるまでの話をし始めた。



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