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杏那は、コンボを覚えたばかりだ。
一応俺は、杏那に対して使えるコンボは教えたつもりだ。
昨日杏那が、ユズを使うと宣言した時からだ。
乱入台の裏で竜二の反対側に座った杏那は、後からついてきた俺を見るなり顔を上げた。
「ねえ、どうやって乱入するの?」
「百円入れて、スタートボタンを押す」
「わかったわ」百円硬貨を取り出し、投入口に入れようとする杏那。
それを俺は、やっぱり止めようとした。
「だが、約束してくれ。お前だって、そんなに裕福ではないだろ」
「な、何を言っているの?」
「乱入台は負けたらその瞬間、ゲームが終わるんだぜ。
一回乱入台で負けて、再び戦いたければ百円かかる」
「そ、それがなんだって言うの?」
「金は大事にしろ、そういうことだ。だからこの戦いに負けたら、しばらく乱入台禁止な」
「わ、わかっているわよ。ちゃんと勝てばいいんでしょ!」
杏那は、それでも強気に硬貨を投入した。
俺はそう言いながら、しゃがんで杏那の側に座った。
「一応セコンドはする、今回だけな」
「うん……」そして竜二に杏那は乱入していた。
キャラクター画面が出て、もちろんユズを選ぶ。
ちなみに乱入された側は、キャラクターの変更ができない。
従って、対戦相手は『カムチャット』だ。竜二のメインキャラだから、ここはガチで戦ってくるだろう。
「『カムチャット』の戦いは、とにかく間合いを詰めるようにいけ。
少し距離が離れたら、カムチャットのミドルキックが的確に飛んでくるからな。
キック特化だから、カムチャットのキックはリーチも長くて技のモーションも早い」
「わかっているわよ」
「基本組立は……そうか、あのコンボは覚えているか?」
「あのコンボ?」
「『ドリミカルコンボ』」
「名前は知っているし、確かPPKP上PKKPだっけ?」
「まあ、もうひとつあるが、それを連発しておけ」
このコンボは、中級者までなら通用するだろう。
だが上級者の竜二に、これだけでは通用しないのは俺もよく分かっていた。
「あとは?」
「もう始まる、バトルが」
そして、ファイトの文字でバトルが始まった。
杏那の『ユズ』と竜二の『カムチャット』。
ゲーム三日目の杏那と、ゲーム歴三年以上の竜二。
乱入台だと、容赦なく完膚なきまでに叩きのめす竜二。
そして、俺の予想を大きく外れない戦いが画面の中で行われた。
『カムチャット』の五本連取で、竜二が圧勝していた。




