039
竜二は、当たり前のように強い。
まあ、俺が本気を出したらこのゲーセンの中では、竜二以外対戦相手すらならないだろ。
乱入台で、竜二が相手の『ユウト』をボコボコにしていた。
「すごい!竜二さん、めちゃくちゃ強いんですけど……」
「竜二は強いぞ」
「やはり……みんな強いのね」ため息混じりに、杏那はボソリと言う。
「でも、みんなは初心者だった頃はあるし、別に悲観することでもない」
「だけど、彼は店舗大会に出るんでしょ」
杏那の言葉に、俺は否定できなかった。
間違いなく竜二は、今回も出てくるだろう。
前回この店舗大会では、俺に次ぐ準優勝だからな。
「あたし、ガチで戦ってみたい!」
「え、竜二とか?」立ち上がった杏那を、俺はじっと見ていた。
「うん、だって竜二さんと戦うんだから、あたしが本気でどこまでやれるのか……」
「落ち着け、金の無駄だ」
俺は、杏那のか細い腕を引っ張った。
二の腕を引っ張られて、俺の手を振り払う。
「ちょっと、何あたしの腕を掴んでいるの?」
「ご、ごめん」
そして、杏那のことを思いのほか意識してしまった。
「……やっぱ、一度本気で戦ってみたいわ」
杏那は俺の指摘を無視して、竜二の裏にある乱入台に向かっていった。
(アイツ……しょうがないな)
俺も立ち上がり、杏那をつけるように一緒に乱入台に向かっていった。
そんな時に、俺は杏那が置き忘れた通学カバンを偶然にも見つけた。
手提げの通学カバンの手前のポケットには、バイトの時間表らしきものがちらりと見えていた。




