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杏那の百円で対戦が終わり、次に待っていた小学生に席を譲った。
そのまま近くのベンチに座る。近くの自販機でコーラを買っている竜二。
俺のそばにいる杏那は、コンボをブツブツと繰り返し暗唱中。
俺は、ベンチのすぐそばにある乱入台をじっと見ていた。
誰かがやっている乱入台、そこでは五本制の乱入が行われていた。
「ふー、ガードだけだとつまんねえよな?」
「うんうん、あたしもそう思う」竜二に杏那が同意した。
「まあ、杏那は初心者だし、頼むよ」
「いいけど、本当に弟子だったんだな。和成の女じゃないんだな」
「当たり前だろ」俺はコンボを、暗唱していた杏那をちらりと見た。
不意に見る横顔が、由人が言うとおり可愛いようだ。
ショートボブの横顔は、真剣な眼差しだけど目も大きい女だからな。
「にしても、女が『リアルファイター6』とか……UFOキャッチャーぐらいしかやったことないな」
「あれ、竜二は女いたのか?」
「当たり前だろ、昔は兄貴の女を奪い取ったけど」
「嘘?ガチで?」
「いいだろ、お前に話す必要はない」
コーラを飲みながら、不機嫌に言っていた。
「でも、女か……」
「行ってくる」そう言いながら乱入台が空いたのを見て、竜二が乱入した。
そんな中、俺は隣の杏那に声をかけた。
「杏那、技は覚えたか?」
「うん、なに?」ブツブツ唱えているのを止めて、俺の方を振り向く杏那。
「ユズの技、だいぶ覚えていたな」
「そ、そう?まああたしなら、出来て当然よ」
「偉いぞ、杏那」俺は杏那の頭を、ポンポンと軽く叩いた。
「ううっ、それ……照れるじゃない」
「そうか?なあ、それより今から竜二が戦うから」
「あの竜二さんが?」
杏那のスパーリング相手、竜二はキャラクターの選択をしていた。
使ったのは、『カムチャット』ムエタイの選手だ。
「あれが、本物のムエタイだよ」
画面には日に焼けたような黒っぽい肌で、赤い髪のモヒカン男がにやりと笑っていた。




