036
橋上 竜二と俺の間には、ある決まりがあった。
それは『喧嘩』に勝ったら、負けた方の言うことを一つ聞くこと。
ここでいう『喧嘩』というのは、もちろん『リアルファイター6』のことだ。
リアルな喧嘩は俺の趣味じゃないし、おそらく竜二に勝てないだろう。なにより痛くて面倒だ。
乱入台がちょうど空いていて、俺と竜二がゲーム筐体に別れて座って。
橋上 竜二はリアルファイターが強い。春の店舗大会に決勝で当たった相手だ。
俺の乱入をしたのは竜二で、バトルは始まった。そして……
「よし、俺の勝ち」
ゲーム画面では、俺のキャラ『ユズ』がガッツポーズを見せていた。
戦いに敗れた竜二は、周りの不良たちに慰められていた。
すぐに、俺のいるゲーム筐体に悔しそうな顔で来ていた。
「な、なぜだ……」さっきまでの威勢が、ない。
情けない顔で、俺と杏那のところに姿を見せていた。
「まあ、相性が悪いよな。てか、『カムチャット』じゃないのかよ?」
「ああ、いいだろ。お前があまり使わない『ユズ』を選択したから、俺もあまり使わない『白白山』で……」
俺が倒したのは、竜二のメインキャラではない『白白山』。
『白白山』は相撲レスラー、平たく言えば力士だ。
見た目通りの力士なので、体は太く、動きは鈍い。
意外と張り手のリーチが長かったり、キックもリーチがあったりする。
(あれ、スモウって蹴り技なかったような……)
そんなやり取りを俺の後方で、杏那が遠い目でぼんやりと見ていた。
「でも、一勝は一勝だからな」
「もう一回、俺とやってくれ、な?」
「いや、一勝は一勝だ」
食い下がり、俺のそばに情けなく膝まずく竜二。
勝者である俺は、淡々とストーリーモードを進めていた。
「そこをなんとか……」低頭平身で、なんとか粘ってきた。
「ねえ、やってあげてもいいんじゃない?」これを言ったのは杏那だ。
「いや……俺は今日、ゲームをしに来たわけじゃない。
お前を育てに来たし、それに竜二には言うことを聞いてもらわないといけないだろ」
杏那の情けも、俺は容赦なく切り捨てた。
「な、何を……」
「竜二、今日一日俺の弟子……杏那に付き合ってもらうからな」
その言葉を言い放って、竜二は観念した様子で後ろの杏那を見ていた。
最初の威勢がすっかりなくなり、猫背で情けない顔の竜二を見ていた。
それを聞いた杏那は、驚いた顔を見せていた。




