035
それは不良集団だ、このゲーセンにも不良はいた。
制服的に見て、俺たちの松本中央ではないようだ。
とりあえず、俺は杏那の手を引いて後ろに下がらせた。
「面倒なことになる前に、ゲーセンの中に入るか」
「だけど、前も……」
そう、杏那は俺よりも冷静だ。下がろうとしても堂々としていた。
ゲーセンの自動ドアが開くと、やはり黒い学ラン姿のヤンキーだ。
派手に固めた赤と金の混じった髪に、耳にいくつものピアス、目つきが鋭い。
自動ドアから出てきたやつも、同じ色の制服だろう。
「ああ、大丈夫だ。竜二」
「なんだよ、来ていたのか。和成」
「和成、知り合い?」
「こいつの名前は、『橋上 竜二』」
そんな俺は、前にいる金と赤い髪の男を紹介した。
無論、竜二もまた俺のそばにいる女を見つけて聞いてきた。
「けっ、和成の女つきかよ!」
「違うよ、こいつは磯貝 杏那。俺の学校の同級生だが、俺の弟子だ」
「弟子かよ……なんだ。そうかよ」
そう言いながらも、ちょっと残念そうな顔を見せていた竜二。
ジロジロと竜二が、品定めをするように杏那を見ていた。
杏那はガラの悪そうな男を、一歩も引かず強気に睨んでいた。
「こいつ、できそうなのか?」
「まだ、初心者だ」
「ふーん、まあいいや」
「にしても、俺を待ち伏せて竜二はなにしている?」
「決まっているんだろ、秋の陣も始まるからな」
「そうか、そうだよな」
「というわけで喧嘩しようぜ!」
指をポキポキ鳴らしながら、竜二は悪く笑っていた。
下品そうに悪く笑いながら、俺の次の言葉を待つ。
「俺はそのつもりはない、今日はここには別件できたし……」
「ああっ、いいだろ。それとも逃げるのか?」
後ろの不良たちも、ガラが悪く笑っていた。
俺は後ろに視線を向けながら、前にいる竜二を見ていた。
「わかったよ、やるよ」
「そうでなきゃな!じゃあ、始めようか。俺たちの『喧嘩』を」
暑そうな黒い学ランを、竜二が脱いで腕を回していた。




