033
学校が終わり、俺は道で自転車を押していた。隣には杏那もいた。
普通に六時間、ガッツリ授業。夏休み明け最初の授業は単純にハードだった。
明日から体育が追加される、噂だと明日の体育はサッカーらしい。
放課後の鐘が鳴り、杏那は直ぐに俺に向かいに来た。
その度に女子に変な噂をされて、憶測だけが俺の知らないところで進んでいるのかもしれないが。
自転車通学の俺と、徒歩通学の杏那は街の中を歩いていた。
九月に入ったとはいえ夏の暑さで、昼間の三時ぐらいはクソ暑い。
汗がダラダラと流れてきて、頭もボーっとすることもある。
「絶賛、残暑展開中だな」
「なによ!和成っ、シャキっとしなさいよ!」
「あまり杏那は汗、かかないのか?」
「あんたが汗をかきすぎなのよ」
俺の隣にいる杏那の表情は、驚く程涼しい表情を保っていた。
汗臭さもなく、むしろ俺の汗の匂いがきつい。
「それより、問題を出すんでしょ」
「ああ、『スピンキック』のコマンドは?」
「KK前」
「ああ、そうだ。この技は使えるから、牽制とかに使う。防御する方は中段、下段ガードで」
「次の問題出して」杏那が俺に、問題をさらに求めてきた。
「じゃあ……これは?『ユズコンビ』は?」
「PPKでしょ」
「そう、二発パンチしたあと、一発下段蹴り。この技も、ユズ使いなら覚える必要がある技だ」
「でも、威力は低いのよね、全部で35ダメージ」
「威力は低いけど、相手に攻撃されにくいんだ。
そもそもユズはスピードと手数勝負だから、いくつかコンビネーションを駆使して戦う」
「一番ダメージの大きい単発の技は?」
「『ユズシャッター』だ、ダメージ80」
ちなみにこのダメージは、技に設定されるダメージ値。
すべての技にダメージ値があるが、カウンターヒットや当たり方でもライフの減りが変わってくる。
「じゃあ、『ユズシャッター』のコマンド……」
「後ろとK長押し」
「よく覚えているな、すげーよ。一日でこれだけ覚えたのか」
「この技は、『ユズコンビ』二回分よりダメージあるでしょ」
「まあな。あくまで当たれば……の話だけど。
大会なんかで使っている奴は、見たことないし」
ダメージが高いこの『ユズシャッター』は、当然当たりにくい。
ダメージの高い技はモーションが遅いというのが一般論だ。これは他のキャラも同じだ。
「じゃあ、『ユズシャッター』を使いこなせば、大会を優勝できるんでしょ」
「だから使わないって、そういえば大会のことどれぐらい知っている?」
俺は技よりも杏那に、目的である大会の話をあえて聞いてみた。




