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『北条 ユズ』はスピードキャラ。だが、決して初心者向けのキャラではない。
中級者向けのキャラというゲーム公式の説明に、そう書かれていた。
理由は大きく二つ。一つはパワーが低い、威力がないので一発のダメージを稼げない。
スピードが速いキャラは、大体パワーがないようにバランスを取ってあるのだ。また逆も然り。
そして、もう一つ大きな理由があった。
それはサイクロプスと戦う上で、かなり大きな要因でもあるのだが。
「リーチが短い」コントローラーを受け取った俺は、ユズを選択した。
「リーチ?」杏那が俺に聞いてきた。
「キックは長いけど、ユズの得意なスピードが生きない。
パンチはリーチが短い、対してサイクロプスのリーチはものすごく長い。
しかも中には奥に逃げても、追尾する技も多くある」
「基本的にガードをするの?」
「ガードしても、間合いを広げる技もあるから相手が有利に働く。
つまりサイクロプスは、攻撃のターンをずっと続けられる。これがチートキャラである一番の所以だ」
「なによ、それ。インチキってことじゃない!」
「ああ、全くだ」俺が横目で祈里をジロリと見ていた。
キャラクター選択画面の制限時間が、再び0になった。
「お兄ちゃんずるい、私をいじめるのね。ひどいわ」
「祈里、流石にサイクロプスは反則だろ」
「だって……あきらめが悪いのよ……あたしはお兄ちゃんと……」
「はあ……しょうがない妹だな」
祈里に対して、大人気がないと思ってしまう。まあ実際、二つ年下の中学生だけど。
「絶対勝ってよ、和成師匠っ!」
「多分、無理だと思うけどな」
「お兄ちゃんもハンデいる?」聞いてきたのは祈里だ。
「いいや、ここは杏那の師匠としてノーハンデでやる」
「そう?わかったわよ」
かくして、俺の『ユズ』と祈里の『サイクロプス』の戦いは始まった。




