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プロレスラー、『デス・ストロング』。
『リアルファイター3』で、追加されたキャラクター。
覆面レスラーで、素性はわからない……ことになっている設定だ。
リアルファイター2の時には、正統派でベテランプロレスラー『太山』というキャラが追加された。
その太山が、女キックボクサー『北条 ユズ』という杏那の選んだキャラクターと異種格闘戦『リアルファイター』で戦った。
当時十四歳のユズに負けて、太山が引退して『デス・ストロング』として参戦した設定。
現在のプレースタイルは、完全にヒールレスラーということになった。
ユズに負けたことで、ユズにすごくライバル意識が強い。
「とまあ、こんなふうにデス・ストロングはユズのライバルなわけで……」
「なにそれ?」
「何ってゲームの設定、戦う前に特有の会話が出ているので……」
「いらないわよ、そんなの」
杏那は、キャラクターの設定に全く興味を示さない。
会話シーンを、スタートボタンでスキップした。
その説明は、確かにゲームが強くなるのには不要ではあるが。
「で、この子は?」
「『ユズ』な、攻撃のコンボは……これ」
俺はそう言いながらゲーム機の近くにある本棚から、一冊の大きな本を取りだした。
「これって?」
「攻略本だよ、ユズは……あった」
杏那の前で、B4サイズの攻略本のユズのページを開く。
そこには写真付きで、技の入力法が書いてあった。
「この技は、ゲーセンのやつと同じだから……覚えたことは無駄にならないだろうし」
「このPとかKは?」
「Pはパンチ、Kはキック。コントローラーだとAボタンがパンチで、Bボタンがキックで。
CボタンはGだから……わかるよな」
「ガードでしょ、あとP+Kは?」
「同時押し、言い忘れたがコントローラーのDボタンは禁止な」
「えっ、なんで?」
「家庭用ゲーム機は、便利ボタンと言ってボタンを設定できる。DはP+Gにしてある。つまり投げ技。
だけど、杏那はゲーセンで勝ちたいから禁止な。ゲーセンの筐体には、便利なボタンないし」
「そうね、わかったわ」
杏那は気づいていなかったようだ、俺や祈里が教えなかったのもあるが。
ちなみに杏那の家には、PF4のゲーム機はない。
PF3のゲーム機すらないので、家庭用ゲーム機を触るのも始めてだ。
俺と戦う時は、杏那のほぼボタンの練習場と化す。
攻略本のコンボを、杏那は一つ一つ試していた。
「だいぶわかったか?」
「うん」
「戻ったわ、お兄ちゃん」そんな折、祈里がトイレから出てきた。
そして俺が持っているコントローラーを、「よこせ」とばかりに手を伸ばしていた。




