022
全て格闘ゲームは、選択から始まるのだ。
キャラ選択こそが、戦いを行う上で重要なファクターだ。
テレビ画面には、キャラクター選択画面が見えた。
そこには二十五人の顔が、表示されていた。
「キャラクター選択でしょ、ずっとこれを選んでいたけど」
「杏那がよく選んでいたのは、『ユウト』ってキャラ。攻撃は、キャラクターによって攻め方が違う。
パンチボタンとキックボタンを使うのは、変わらないが」
「何が違うの?」
「攻撃の速さとか、攻撃リーチ距離とか、あとは特殊なコンボや強い技があり……」
「この子、強い?」
そして、杏那がカーソルを合わせていたのが『ユズ』だ。
「ああ、ユズか。女キックボクサーで、攻撃のスピードが速い。
連続コンボ……スピードにものを言わせてガンガン攻めるタイプだ」
「この子にする、なんか可愛いし」
確かに、ユズのリアル設定はカワイイを意識した女キックボクサーだ。
見た目もピンクのホットパンツで、ポニーテールにも小さなリボンをつけているし。
「本当にいいのか?」
「いいわよ、見た目がよければ全て良しっていうでしょ」
「あまり俺は進めないけど、本音なら『ユウト』とかが初心者向けのキャラだし」
「いいのよ」一切杏那に、ブレがない。
杏那は、あくまで自分の選択を貫いていた。
だから俺は、それ以上にほかのキャラを勧めるのをやめることにした。
杏那は、常に選ぶことに迷いがないので決断も速い。
これは格闘ゲームをやることに関して、極めて有効な性格だ。
一瞬の判断で、流れが変わるのが格闘ゲーム。
ミスを引きずって、迷っていては逆に格闘ゲームには向いていない。
ただし深く考えない故に、根拠が薄くて考えることもあまりない。
いずれ実力が拮抗した相手になると、壁にぶち当たるかもしれないが。
「わかった、じゃあ俺はこれを選ぶか」
俺は少し考えてから、動きの遅そうな『デス・ストロング』を選んでいた。




