021
昼食を食べ終えると、祈里と杏那は再び戦っていた。
俺が入る隙間はなく、二人がコントローラーをずっと握っていた。
戦いの結果は、相変わらず祈里の連勝街道をひた走っていた。
つまり、杏那はずっと負け続けていた。
「これで二百六十連勝」喜ぶ祈里に、杏那はじっと見ていた。
「あー、さっきは惜しかったのに!」
「でも、負けは負けよ。弱いわ、弱すぎるのよ」
初心者相手にも、祈里は本当に容赦ない。
祈里の使う『デス・ストロング』が、テレビ画面上では喜んでいた。
『デス・ストロング』の見た目は覆面プロレスラー、戦い方もプロレスラーで動きはかなり遅い。
ただ投げ技や関節技、更にはパンチからの投げ技に変化する技もあった。
「祈里、そろそろ俺と……」
「もう一度勝負よ」
杏那が再戦を求めようと知る中、祈里が俺にコントローラーを渡してきた。
「お兄ちゃん、変わって」そう言いながら祈里は、疲れた顔でテレビの前から立ち上がっていた。
暇をしていた俺は、素直にコントローラーを受け取った。
「ちょっと、祈里ちゃん……あたしはあなたと戦いたいのよ!」
「トイレに行くのよ。あなたはしつこい人なんだから!」
祈里も流石に、杏那が負けても向かってくるのでしつこさを感じていた。
祈里は、そのまま逃げるようにトイレに向かう。
「まあ、杏那。だいぶ動きもわかっただろうし、ボタンも覚えたな」
「でも……全然勝てないわ」悔しさを表情に、はっきり表す杏那。
「格闘ゲームが強くなるのは、やり込みしかない。やった分だけ、金を使った分だけ強くなる」
「それでもあたしには……」
「わかっている。それじゃあそろそろ第二段階に行こうか。絶対、祈里に勝ちたいよな?」
俺の質問に、杏那は顔を赤くして素直に頷いていた。
この杏那の気持ちは、俺もちゃんと理解できたから。
「じゃあ、持ちキャラを決めるか」
俺はそう言いながら、祈里から受け取ったコントローラーのスタートボタンを押していた。




