020
時間はお昼だ。気がつけば、二人は五時間延々と戦っていた。
リビングのそば、ソファーの隣にあるテーブルに座る。
俺と祈里、杏那と母親の四人でテーブルを囲んで食事を取っていた。
朝を抜いていたので、単純に空腹があった。
「あれ、そういえばパパは?」聞いたのは祈里。
「パパは今日も仕事だからね」
「あっ、そうか」これで現在この家に、俺以外の男がいないことが判明した。
祈里が母親と会話をしながら、向かい合う席に座った母親の作ったパスタを食べていた。
エプロン姿の母親は、穏やかな顔で隣の席に座る杏那を見ていた。
「磯貝さん、お口に合うかしら?」
「はい、とっても美味しいです」
「そう?良かったわ」
俺の母親は、ニッコリと微笑み杏那もまた美味しそうに食べていた。
それにしてもすごい食欲だ、あっという間に半分以上食べていた。
これでも杏那の家庭のことは、まだ祈里や母親には喋っていない。
いや、多分喋るつもりはないと思うが。
「でも、びっくりしたわね」
「何のことだ?」
「カズ君がいきなり、朝に女の子を呼んでいたなんて」
「えっと、それはその……ゲームを教えてほしいっていうか……」
「またまた、大丈夫よ」目を細めて、俺の方に笑顔を見せていた。
年齢的には三十代後半の母親だけど、いかんせんかなり若く見られる容姿だ。
街を二人で歩くと、俺の妹に見えてしまったこともあるぐらいの見た目だ。
そんな会話をしていると、祈里が杏那を睨んでいるように見えた。
「でも、お兄ちゃんにふさわしいかどうか、私がよくよーく……調べますから」
「だから、本当にゲームを教えて欲しいわけで……」
「よくわからないけど、あなたも和成の弟子なのかしら?」
口を開いたのは、杏那。それを聞いた祈里は、チラリと横にいる俺を見ていた。
「弟子っていうか、お兄ちゃんです」
「仲がいいのね」
「はい、私とお兄ちゃんの仲の良さは有名で……」
「いきなり俺に引っつくな!」
隣にいる俺の右腕を掴んできた祈里。
前に由人も言っていたが、祈里は俺に対しての『独占欲』があるらしい。
「だってぇ、お兄ちゃんがいきなり女を家に連れ込むし……」
「だから、本当にゲームを教えるためで……」
「私のお兄ちゃんが欲しければ、勝負で勝たないとダメだから!」
「……いいわよ」なぜか祈里の挑発に、乗ってきた杏那。
俺はそんな二人を見て、苦笑いしながら見ていた。
(こんなハズじゃ、なかったけどな)そう思いながら、二人のやり取りを見ていた。




