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リビングは、すぐに戦場と化した。
元々俺は、杏那に対してこれのために呼んだわけだが。
テレビの前に、杏那と祈里が並んで座った。杏那には、俺がもちろんコントローラーの操作を教えた。
テレビ画面には、『リアルファイター5』だ。そして祈里と杏那が、戦っていた。
俺が昨日電話で杏那を呼んだのは、家庭用ゲーム機で『リアルファイター5』をやらせるためだ。
ひとつ前のバージョンとはいえ、ゲームの動きとボタン、独特のシステムを理解するには数をやる必要がある。
プラクティスモードもあるが、祈里がスパーリングをつけるということで実戦になった。
「これで三十連勝ね」テレビ画面では、祈里の操る『ユウト』が勝利宣言だ。
ただ、杏那も同じ『ユウト』を使っているので、祈里の『ユウト』の道着の色が黒い。
俗に言うところの2Pカラーだ。杏那のユウトは白い道着、それが大の字に倒れていた。
「むー、強くない?」当然ふてくされる杏那。
「私は、手を抜かない主義よ」
「もう一回、勝負しなさい!」
「何度やったって同じよ、この泥棒ネコっ!」
最後の方の言葉は小さく、聞こえないように言う。
そのまま勝者の祈里が、スタートボタンを押していた。
そして繰り返される、祈里と杏那の戦い。
俺は、ソファーに座って見守っていた。
杏那は選ぶことなく、ユウトを使う。
一方の祈里は、女のキックボクサー『北条 ユズ』を選択した。
『ユズ』は、ポニーテールの少女。上はビキニのような格好で、ミニパンツ。
一部の男子ファンに人気で、スピードも速くて、初心向きのようにも見えるが欠点も多いキャラだ。
「そんな子、いるのね」
「私はメイン『ユウト』使いだけど、ユズも使えなくはないです」
「誰だろうと、あたしは勝つわ。負けたままで、このまま終われないから」
再び、二人の戦いは画面の中で切って落とされた。
そんな二人の戦いを、俺はぼんやりと見ていた。
(杏那って、よく戦えるよな)
傍から見てもわかるとおり、祈里の動きはスムーズだ。
『リアルファイター』歴六年の祈里と、昨日から始めた杏那。
キャラの動きに差があるのは、明らかだ。
最初はパーフェクト勝ちを連発していた祈里だが、初心者とわかるや徐々に手を抜いていた。
手を抜いたとしても、祈里は十分強い。
たまにパーフェクト勝利を収めるが、杏那は祈里に対して一度もライフを減らして倒せない。
途中で俺が入って祈里を倒すが、それを除けは百戦以上戦って全敗。
実力差も、嫌というほど痛感しているハズ。
「今度こそ、あんたのライフを減らしてあげる」
「そんなこと、させないんだから!」
祈里はそれでも、ユズを上手く動かして間合いをコントロール。
ユウトの出の早いパンチを、華麗にかわしながら攻撃をヒットさせてユズがユウト相手に五本連取していた。




