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杏那はカバンの中を空けて、何かを探していた。
そして、見つけたのは紙の袋。
一応ラッピングされているが、袋がちょっとペチャンコになっていた。
「これ、ありがと」
「え?なに?」
「あたしに、ゲームを教えてくれて……その、あんたに」
「俺に?」杏那は、俺が紙袋を差し出していた。
「お礼よ、何度も言わせないで」
言ったのは初めてだが、俺は素直に受け取った。
「あ、ありがとう」
ちょっと照れくさい、まさか杏那が俺に感謝をしてくれるとは思わなかった。
「これは……指抜きグローブ?」
「そう、和成のグローブ。あたしのお礼」
「いや、すごいな。こんなの出ていたんだ」
「結構、大会の人もつけていたわよ」
「そうなんだ」俺は全然気付かなかった。
そもそも全国大会のゲーム筺体は、通常の乱入台だ。
相手の姿は、実際の戦いの時には見えないので気づかないのも無理はないが。
「和成も全国チャンプだから、身なりをきっちりしなさいよ」
「あれ、それって……」
俺はやはり棚にあるカバンを、取り出した。
そして取り出したのは、副賞だ。
「これ、リアルファイターのグローブ。そういえば全く同じだな」
「和成……」
俺の前で、杏那がなにかを我慢している表情を見せていた。
顔を赤くして、俺を睨んでいた。
「どうした?トイレか?」
「もう、超サイテーなんですけど!」
杏那は電車の中で、俺に切れた。
乗客がほとんどいない電車の中で、杏那の声がよく響いていた。




