015
C組の姫は実に気まぐれだ。
新学期早々、俺は妙な姫に目をつけられたかもしれない。
電話をかけたのは『磯貝 杏那』。だけど色々と、疑問が残っていたので向こうからかけてくるのは都合がいい。
リビングで女の名前を呼んだ俺は、思わずテレビ画面の祈里を気にした。
すぐに視線を逸らしたが、しっかり聞こえているだろうな。完全に。
「ちょっと待て、いろいろ確認させてくれ」
「なに?別にいいけど?」
「どうして俺の連絡先を、C組の知っている」
「A組の知り合いの子から、クラスの連絡網をもらった」
ああ、そうか。杏那は、見た目もかわいいけど女子からも人気があるよな。
連絡網さえあれば、調べるのは簡単だ。だから俺のスマホではなく、自宅の電話か。
「もう一つ、なんで俺に連絡をした?」
「……なさい」
「うん?」小さな声で、ボソボソ言っているようだけど聞こえない。
「ごめんなさい」
それは、杏那が呟いた謝罪の言葉だった。
しおらしい声で、謝っている言葉。
はっきりとした、誠意のある言葉。
普段は強気な少女が見せる言葉に、俺は受話器を持たない左手で頭をかいていた。
「しかたない、俺も教え方が悪かったから……」
「ううん、違うの。あたしが全部悪いの。
あたしは何も知らないで、教えてもらっておきながら……ごめんなさい」
「ああ、いいよ。俺ももうちょっとちゃんと教えれば良かったわけだし……」
「あの……和成」
「どうした?」
「あたしのこと、嫌いになった?」
「いや、ちゃんと話したのは今日が初めてだし。杏那のこと、俺まだよくわからないし」
「ねえ、お願い」
切羽詰まった声で、杏那が頼み込んできた。
「お願いって?」
「もう一度……あたしにちゃんと教えて欲しいの」
「『リアルファイター6』をか?」
「うん、あたしは強くなりたいの」
「そのことだけど……」
最初から俺は、ずっと疑問だった。
いかにも、何も知らないことを無理に知ろうとしているそんな姿に見えたから。
子供が無理に背伸びして、上の棚にあるモノを取ろうと必死にもがいているそんな風に見えた。
名前も知らないゲームを、どうして彼女は覚えたがるのだろうか。
「なんで、このゲームを強くなりたいの?」
「あたしは……守りたいの」
それは杏那が一番強く叫んでいた。心の奥から叫んだ強い想いを込めて。




