149
俺はステージの上に立って……というより座っていた。
ステージの上には、二台のゲーム筐体が向き合っていた。
中央には大型スクリーン、クレーンカメラもあって、店舗大会なんかと規模がすべて違う。
去年も来たが、大会ごとに豪華になっている。随分と金をかけているイベントだ。
それもその筈、テレビガメラも着ていてネットで全世界に配信されているのだ。
しかも中にはプロなんかも参加している。
『ファン・ジャンチー』を使い戦った俺、相手のキャラは『ジョニー』。
そして、決勝の結果が画面に出た。
「ウィナー、ナリカズ、長野代表っ!」
俺は、とうとう全国制覇を達成した。
実況をしている売れない芸人が、盛り上げようと声を張り上げる。
俺は立ち上がって、観客席の声に応えた。
「おめでとう」売れない芸人が、俺にマイクを向けていた。
「ありがとう、ございます」
嬉しそうな顔で俺は、インタビューに答えていた。
その後、トロフィーと賞金を受け取っていく。
そのままネット中継も終わって、俺は幕の袖に戻ってきた。
「御厨君、おめでとう」
そこにいたのは、杏那の父親だった。
頭が剥げているが、スーツを着ていてかっこよく決めていた。
「はい、ありがとうございます」
「やはり君は、本当にすごいよ」
「いえ、優勝したのは杏那のおかげでもあります」
「僕の娘が、信じられない」
「本当です、彼女に僕は教わりました。
なぜ、前回の大会で勝てなかったのかを。彼女に教えるつもりが、いつの間にか教わっていました」
俺は、自然と杏那の感謝の言葉が出ていた。
「そうか……あの子は強い子だからな」
「はい、強いです」
俺は、杏那のことを思っていた。
目的を与えてくれて、目的を持つことを教えてくれた俺の大事な弟子。
「それより、杏那とは……」
「その話は、杏那から聞いたほうがいいだろう」
俺が話している杏那の父親の後ろには、杏那が立っていた。
目に、涙を浮かべながら。




