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あれから二時間、大会開始から四時間程が経過した。
AからDの全てのトーナメントを優勝者が決まった。
いよいよ県大会は、佳境に入っていく。
それは、優勝者四人の総当りのリーグ戦。ここでは、全員が戦う。
そして初戦は、いきなり俺と杏那の戦いから始まっていた。
俺と杏那が隣で戦うのは、初心者台以来だろうか。乱入台では昨日も戦ったが。
「ギャラリーは、すっかり杏那贔屓だな」
「ギャラリーは、あくまでギャラリーでしょ」
周りのギャラリーは、新しくて、珍しくて、見た目が良くて、劇的なものに流れるものだ。
前回王者の俺よりも、杏那に人気が集まるのは当然だ。
「それでも、俺は手を抜かない」
「そうね、今度こそあなたから五ポイントを奪うわ」
すぐに、初戦が始まった。もちろん俺が『ファン・ジャンチー』、杏那は『ユズ』。
敵に回すドリミカルコンボは、これほど手ごわいものはない。
ユズの二択コンボが、俺のファンを襲ってきた。
そして、あっという間に最初のポイントを奪う。
(やばいな、これ。マジで強い)
杏那が急成長をしているのは、見ていてわかっていた。
ただ、本気でやってみて俺がスピードで押されていた。
キャラを生かした動きと戦い方、今の杏那は完全にユズになりきっていた。
(杏那は俺と戦っているから、やりやすい相手ではあるが)
ジャンチーを倒しながら、戦う選択をした。
二択コンボにつなげれば、勝負になるだろう。
だが、杏那もそれに対して落ち着いて対応していた。
手の内がわかる俺と杏那の戦いは四対三、俺がかろうじて一ポイントリードしていた。
(だけど、最後は勝ちたいか……だよな)
俺は、杏那に見せたことないような技を見せていた。
それはジャンチーのガード不能、ユズはつぶしに行くか逃げるか選択していく。
(こういう時は、大概つぶしに行く)
背中を向けたジャンチーのガード不能には一つ、強みがあった。
杏那が操るユズが、パンチを放つ。だけどそれを、うまくすかしていた。
「よけた!」思わず杏那が声を上げる。
そう、このガード不能は手前にくるりと回るのだ。
それがカウンター気味に入ると、ユズのダメージを一気に奪う。
そこで、俺と杏那の戦いは勝負があった。
「勝者、和成っ!」店員の勝ち名乗りを受ける、俺。
杏那は悔しそうに画面を見ていた。がっかりした声が、ギャラリーからも漏れてきた。
「杏那、強かったよ」俺が杏那に手を差し出す。
「悔しい……和也に負けたっ!」
杏那は、それでも俺の手を受け取った。
「それよりも、次は君の本戦だ」
「和成……」
俺と杏那の戦いと同時進行で、杏那の父親がトーナメントDの王者を倒していた。




