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俺のAグループが終わると、直ぐにBグループが始まっていた。
県大会のトーナメントは、順調に進んでいく。
Bの決勝は、予想通り謙信と杏那の父親の戦いだ。
この開発者枠は、やはり強い。
塩尻にある別のゲーセンで店舗優勝をした謙信に対して、勝利をしていた。
杏那が苦戦した謙信をストレートでくだし、勝利をした杏那の父親。
そして、いよいよ杏那のいるCの出番だ。
試合時間からだいぶ経っているのか、杏那は落ち着いていた。
「杏那、緊張していないよな」
「いいえ、程よく緊張しているわよ」
「まあ、それなら問題ない。それにしても相手は初戦の開発者か」
参加者唯一の女性である杏那の戦いは、注目を浴びていた。
「ここに来るのだから、参加者みんな強いでしょ。それよりも、パパがそこにいるのだから」
父親が、無難にBのトーナメントを勝ち抜けた。
杏那には、まだ戦うチャンスが残されているのだ。
「ああ、シード選手だから初戦から決勝みたいなものだ。気合入れていけよ!」
「当たり前でしょ、絶対に勝つわ」
杏那はそう言いながら、隣の対戦相手を見ていた。
そこには、開発者枠の青年がにこやかに杏那をみていた。
そして、戦いは始まる。俺は離れて、杏那の試合を見守っていた。
「しかし、開発者とはね……彼女も大変だ」
「謙信さん」
「はは、あの圭一郎さんの娘だったとは。才能があるのは違うなぁ」
「そうじゃないですよ」
俺は謙信に対し、はっきりと言っていた。
「才能ではない?」
「ええ、彼女の強い思いが戦わせている。
強くなりたいという気持ちが、彼女を強くした。それは格闘家として、最も大事なファクター」
開発者の男は『ユウト』を使う、杏那の『ユズ』と戦う。画面に映し出されて、ギャラリーから声を上げた。
それでも臆することなく、杏那はしっかり戦えていた。
今の杏那は、コンボミスも随分と減った。
いや、むしろコマンド入力が早くなっているようだ。
入力の速さは、ユズというスピード重視のキャラクターを強くしていた。
「あれか、二択コンボ!」
謙信も、思わず声を上げていた。ユズのドリミカルコンボは、相手を惑わす。
一度成功させると、ガードを迷わせる効果もあった。ユズが、次々とポイントを奪っていった。
「本当に強いね」
「今の杏那は、強い」
そして、杏那は優勝候補だった開発者の男を倒していた。




