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運命の日がやってきた。
そして、運命の場所にやってきた。
長野市内あるこのゲームセンターは、松本市内のゲーセンよりさらに大きい。
外観はやはり赤く、三階建ての高い建物で県大会会場は三階であるのだ。そして、人が集まっていた。
「すごい、大きなゲーセン」
杏那は、黒いノースリーブと白のミニスカート。
「ああ、大きなゲーセンだ」
「お前は見たことあるだろ」
ビデオゲームエリアで、俺はゲーセンの中を見ていた。
俺は長袖のシャツに、長ズボン。流石に秋なので寒い。
冬服を出そうかと、わざわざ思ったぐらいだ。
そんな中、人だかりができているエリアがあった。
乱入台があるところだが、そこには人がかなり多く集まっていた。
大多数が男というのは、『リアルファイター』というゲームの性質上どの大会も変わらない。
多くの人が集まるそんな中で、見慣れた一人の人間がやって来た。
背広の営業マン、優しそうな顔でニコニコしながらこちらに現れた。
「あれ、御厨殿ではないですか」
「ああ、謙信さんも来ていたんですか」
「ええ、塩尻の予選はなんとか勝ちましたので。やはりきましたね、磯貝さん」
「もちろんよ、今度もあたしが勝つわ」
気合の入った杏那は、にこやかな謙信を厳しく睨む。
目を細めた謙信は、優しそうな顔をしているが本番になると強気の性格だ。
「それじゃあ、私はこれで。また御厨殿」
謙信は、仲が良さそうな社会人のグループの方に消えていった。
「あれ、謙信か?」
「ああ、塩尻の魔術師の」
「そうかよ、やべえな、サインもらってくるか?」
「やめておけ、仮にも対戦相手だぞ」
竜二は、意外にも謙信とは初顔合わせだ。
ネットでも有名なプレイヤーだから、謙信の隠れファンも多い。
「にしても、人が多いな」
「ここの予選も今やっている。まだ終わっていなそうだな」
「そうだね。どうした杏那?」
俺と竜二が話している間に、杏那が動き出す。
「パパっ!」
「パパ?」
杏那が進んだ先には、背広を着た男が一人いた。
ねずみ色の背広に、残念に禿げた頭。
年齢的には五十代の初老の男、口には髭も生えていた。
「杏那……どうして」
そしてその男も、杏那の登場で驚いた顔を見せていた。




