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夕方、結局あのあとゲーセンを出た。
このあたりは、市街地から離れた場所で、畑も見えるのどかな場所。
祈里も自転車でここに来たので、ツーリングをしていた。
滅多に車が通らない道路なので、俺と祈里は道路の半分に広がって走っていた。
「お兄ちゃん、今日は一人だ」
「ああ、今日もだよ」
「そうなんだ」
「なんだよ?」
「いや、元気ないなって」
俺の顔を覗き込んだ祈里が、心配した表情を見せた。
「だ、大丈夫だ。それより祈里はどうした?」
「今日は塾を抜けてサボり」可愛く笑ってごまかす祈里。
「サボりって……」俺が苦笑いをしていた。
「でも、磯貝さんと喧嘩した?」
「いや、喧嘩は特にしていないんだが……一昨日の塩尻のゲーセンで優勝してから」
「優勝……か。お兄ちゃん、捨てられたんじゃない」
「やっぱり……」
「なーんてね、ウソよ。そういえば磯貝さんは、塾からここに来るとき見たけど」
「え?」いきなり祈里は、驚きの新事実を告げてきた。
「どこで?誰と、いつ?」
「えっと、駅近くの小さな公園で……一人だった。見たのはゲーセンに来る前だから、一時間前くらい?」
「なにしていた?」
「ブランコに乗っていたような……そういえば元気がなかったような」
祈里が思い出しながら、口にした。
「ありがと、祈里」
すると俺は、自転車を止めた。
「お兄ちゃん、待って!」
「いや、いく」
「どうして?あの子に捨てられたかも、しれないんだよ」
「それでも理由が知りたい。この二日、満足に話せていないから」
俺はUターンをしていた。そのまま、必死な顔で自転車をこぎ始めた。
「お兄ちゃん、だから一時間前だって!」
「じゃあな、祈里」
決して振り返らず、俺は激しくペダルを回し始めた。
顔を歪めながら、ひたすらこいでいた。




