013
俺の家は、松本市の中心からだいぶ離れていた。
自転車で、街の中心に行くのに三十分以上かかっていた。
山に囲まれた、自然豊かな畑と森の中にある数軒の住宅街というより集落。
二階建ての一軒家が、俺の家。庭がかなり大きく、そばには昔ながらの大きな倉がある家だ。
自宅の一階のリビングから、奥にある大きな風呂。
浴室も結構広い中、俺は一人で湯船に浸かっていた。
(結局、なんだったアイツは?)
俺を置いて勝手に帰った、『磯貝 杏那』。
C組の少女が、帰りに俺にリアルファイターを教えて欲しいと言ってきた。
しかし、ゲームは愚かゲーセンすら初心者の杏那。
移動とガードの大切さを教えたが、怒って帰ってしまった。
(アイツは攻撃だけを、教えて欲しかったのか?)
それにしても、モノの見事なまでの完全な初心者だ。
ビデオゲーム自体、筐体に触れるのも初めのように思える程に明らかに不慣れの様子だ。
小三からビデオゲームをやっている俺にとって、そんなものはひと目でわかった。
「お兄ちゃん、お風呂上がった?」
女のこえが聞こえる、杏那よりも声が高くて可愛らしい声だ。
「ああ、祈里か。今、上がるところだ!」
顔も赤くして、三十分近く浸かっていた俺は湯船から出た。
「うん、じゃあリビングで待っているから」
弾む声が、いや脱衣所の方から聞こえた。俺はタオルで体を拭いてから浴室のドアを開けた。
そこには、一人の女がしゃがんでいた。
白く薄いパジャマ姿で、肩まであるミドルヘアーの若い女が、ジーっと俺を見ていた。
そして、俺の裸を見るなりなぜか顔を背けた。
「な、なんでいる?祈里!」
俺は思わず、叫ばずにはいられなかった。




