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由人がいないと、俺は自然とリアリファイターのあるビデオゲームエリアに向かう。
そして、俺はリアルファイターをやっていた。もちろん乱入台だ。
杏那をさがしたが、このゲーセンにはいない。
バイトはないはずなのに、今日は来ていない。
(県大会に行けるようになったら、俺はお払い箱だろうか)
杏那の最近のよそよそしさも、なんだか気になるところだ。
それでもゲームで、カードを入れて乱入者三人を撃破していた。
使用しているキャラは『ユズ』、杏那の得意キャラだ。
ただ俺の名前と戦歴を見た者は、もう乱入はしないだろう。
そんな中、乱入台は既にアーケードモード化していた。
(まあ、あいつにとったらそれが目的なんだし……)
でも腑に落ちない点も、いくつも感じた。
あの杏那は、そんなに残忍な人間なのだろうか。
一ヶ月ほど見てきたが、そこまで悪い人間には見えなかった。
(それよりも、俺も県大会がある)
今朝家のポストに、シードとして県大会の参加証が届いていた。
今週末の日曜に、県大会があるのが分かっていた。
前回王者として、俺は初めて参加するのだ。
(杏那に教えてばかりだったからな……このままだと『ファン・ジャンチー』は使えないかも)
だが、そんな俺の余裕を嘲笑う結果が画面で起きていた。
それはアーケードモード、ラスボスのサイクロプス・改戦。
まさかの一ポイントを、俺は奪われた。
(あっ、しまった)
本気で戦う中で、コンピューター相手にポイントを失ったのは久しぶりだ。
「お兄ちゃん、何やっているの?」
そんな時、俺の後ろから声をかけてきた女がいた。
俺が振り返ると、そこにはセーラー服の祈里が顔を覗いていた。




