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たった一ヶ月で初心者女子高生が格闘ゲームを極める話  作者: 葉月 優奈
十一話:悩みもがく者
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俺はゲーセンにいた。もちろん学校近くの、あのゲーセンだ。

学生服姿の俺は、ゲーセンで『リアルファイター』をやっていない。

ビデオゲームエリアの奥、体感ゲームエリアだ。そして、俺と一緒にいるのは杏那ではなかった。


「村井、俺を指すな!」

俺の前で嫌いな教師の名前を叫びながら、パンチングマシーンにパンチを打つのは由人。

グローブをはめて、思い切り赤い的めがけて殴っていた。


「村井が嫌い?」

「ああ、よく俺を目の敵にするし」

「由人が授業中で寝ているからじゃない?」

「あれは……たまたまだ」

村井は、世界史の中年女教師。

厚化粧で、なぜかクラスでレアな男ばかりを指す。

興奮気味になっていた由人が、グローブを外す。


「それより、163キロか。まあまあだな」

パンチングマシーンの機械のデータを、ぼんやりと見ていた。

「相変わらず……すごいな、空手少年は」

「でも、磯貝さんの突きはこんなのよりはるかに痛いぜ」

おもむろに由人が、制服のブレザーを上にめくっていた。

その中からは鍛え上げられた腹筋が見えていた。

ものすごく割れているシックスパックだ。体をしっかり鍛えているのが分かる。


「磯貝さんは、空手やっていたのか?」

「前にも話しただろう、中学はテニス部だったらしい」

「そうか……」

そう言いながら、由人は俺にグローブを渡してきた。


「和成もどうだ?」

「俺、そんなに力ないぜ」

俺はそう言いつつもお金を入れて、グローブをはめた。


「親指は気をつけろ、素人は親指をよく巻き込みやすいから」

俺の手を掴んで握り方を指導する、さすがは空手の師範資格者だ。

右手にグローブを、はめてそのまま握る。


「そして、嫌なやつを思い浮かべて……殴る」

俺の前には、赤い無機質な的が現れた。


「嫌いな奴ねぇ」

言われても、簡単に思い浮かばない。リアルの社会で恨みのある人間は、それ程いない。

求めているものも、決して多くはないので失望もないからだ。

そんな中で、あるひとつのことを思い出す。


「クソ待ち『ジョニー』っ!」

俺はそう言いながら殴った。それを聞いて首をかしげる由人。


「ジョニー?」

「リアルファイターのキャラの名前、俺が始めの頃よく待ちジョニーにボコボコにされた事を思い出したので」

「ふーん」グローブを外し、パンチ力を見る。

だが、そんな中で一人の女が声をかけてきた。

よく見ると俺の学校の制服ではない。別の学校のブレザーだ。


「ああ、ごめん。俺、そろそろ行くわ」その女が、由人を呼んでいた。

俺は一人でパンチゲームの結果を見ていた。


「ダサッ」102キロという低調な記録に、苦笑いするしかなかった。



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