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昼休み、俺はご飯をいつものテラスで食べていた。
今日も、杏那はいない。女子たちと一緒にいるのだろうか。
その代わりに、俺の相手は別の男がいた。当然のごとく、由人だが。
「和成は、ここで食っていたのか」
「まあ、中庭も見られるし」
「磯貝さんと一緒に……だろ」
由人はなんでもお見通しだ、特に女のことは本当に詳しい。
由人の昼食は、いつも購買で売っているゼリーだ。
空手の大会が近いと、プロテインゼリーだけしか食べない。
「まあ、昨日も今日もいないけど」
「喧嘩しただろ」
「喧嘩なんかしていないわ」
そう言いながら、杏那が先週の土曜日ぶりにこのテラスに現れた。
「杏那、飯か?」
「うん、いいでしょ」
そう言いながら、杏那は俺と由人の間に座っていた。
「磯貝さん、もしかして俺のことが気になった?」
「いいえ、違うわ」由人を否定した杏那。
静かに弁当を広げる、やはりノリしかない寂しい弁当だ。
それを、黙々と静かに食べていた。
「大体、弱い男に興味はないわ」
「うっ……そうか」
苦笑いをする由人、実はこの前の道場で由人は杏那と組手をやった。
しかし杏那の身体能力の高さによって、由人が杏那の突きで悶絶した。
黒帯の由人が簡単に倒されて、俺も驚いたのだが。
「杏那は、本当に身体的なポテンシャル高いよな」
「あんたたちが弱いだけよ」
体力はないが、力は高い女。
運動部に入っていないのに、体力測定は女子よりも男子クラスだ。
対する俺は運動神経も女子並みなので、杏那の運動神経が羨ましい限りだ。
「それじゃあ、なんで俺にそっけないんだ?」
「そ、それは……」顔が赤い杏那。
弁当を食べる、杏那の動きが止まっていた。
「と、とにかく今日も練習行くから。後はゲーセンで、合流しましょ!」
「え?ああ」
杏那は、そう言いながら弁当を持ったまま立ち上がった。
そのままテラスのベンチから、いそいそと離れていった。
まるで、俺から逃げるかのように。
落ち込む由人と、呆気にとられる俺だけがそこに残っていた。




