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杏那が優勝してから二日後、いつもの朝を迎えていた。
当たり前の日常が始まり、学校生活があるのだ。
そして、玄関で俺は一人で靴を履きかけていた。
そこで、偶然にも別のクラスの杏那と出会った。
「杏那、おはよう」
「うん」だけどすぐに女子たちが、囲んでいる中から顔を見せた。
『磯貝 杏那』は松本中央で人気の女子だ。
周りの女子は、杏那を神のように見ているからだ。
「杏那、今日だけどさ……」
「ごめん、急いでいるから!」杏那は、なぜか俺を避けているようだ。
杏那の表情を見て、取り巻きの女子たちが俺を睨んでいた。
そのまま、走り去る杏那と取り巻きの女子たち。
(どうしたんだ、アイツ?)
などと思っていると、俺の後ろから抱きつく男がいた。
「おはよっ!」
「由人か」
すぐさま俺の背中から手を回し、爽やかな笑顔を見せる由人。
「どうした、元気ないぞ」
「いや、最近杏那の様子がおかしいんだ」
「杏那?ああ、磯貝さんか……」
すぐに由人は、俺から離れて見ていた。
「ああ。特にここ二日ほど、反応が鈍いっていうか」
「店舗大会に、優勝したんだっけ?」
「うん、その辺からだよ」
「お前、優勝したから捨てられたとか……」
「ええっ、まだ県大会始まっていないのに?」
杏那の目的は県大会、父の参加が決まっている県大会で戦うための師弟関係だ。
だから杏那との関係は、ここで終わるとは思えなかったのだが。
「わかんないよ。磯貝さんって、C組の女子が言うには男にかなり厳しいようだからね」
「そうよ、あの女は大の男嫌いで有名だから」
俺と由人が話していると、優雅に歩美が制服姿で現れた。
長いブレザーを着て、短い白のスカート。
「ああ、歩美か」
「歩美はまだ、諦めていませんわ。今回は……残念ですが」
「まあ、次の春もあるし」
「今度は負けませんことよ!」
眼鏡をかけた歩美は、俺に挑発的に指を差していた。
「それより、杏那は男嫌いなのは……」
「本当よ、あの子中学は告白してきた十四人の男をフッたのよ」
それは俺の知らない、杏那の意外な過去だった。
俺の存在が、杏那の重荷になっていたのかと思ってしまった。




