124
この戦いは、思いのほか拮抗していた。
杏那の成長は、俺の思っているところよりはるかに超えていた。
そもそもユズは、基本的には『チョ・イルテン』とは相性がいい。
構えをすることで、ノーモーションの攻撃が可能なイルテン。
だけど、ユズ自体がそもそも攻撃は早いのだ。
それに杏那は、イルテンの間合いをかなり把握していた。
最初のポイントを杏那が奪った、これは予想外だった。
ガードを把握して、冷静に対応した結果を見せた。
ポイントを失ったことで、謙信も戦い方を変えていた。
それでも最初は、イルテンが勝つものの、すぐにユズがポイントを奪い返す。
そして、四対四という接戦にもつれ込む。
最後の戦いが始まっていた。ギャラリーの中で、俺は戦いを見守っていた。
(鶴の構えでコンボをすれば、謙信が有利。
だが、構えをさせまいと杏那はしっかり動いている)
構えを取らせないうちに、うまく攻撃を入れたい。
コンボミスのない謙信だ、一度コンボが入ればそれだけで勝負を決める攻撃力があったのだ。
(杏那はどうする?回り込みながら、あの『ユズコンビネーション』か)
ユズが、コンビネーションでガードをさせる戦術があった。
上段を避ける技がないので、ガードで対応するしかない。
そんな中、ユズはキャンセルをした。
(キャンセルをした、投げるのか)
ユズが投げ用とした瞬間、イルテンが吹き飛ばしの蹴りを見せた。
ミドルキックで、投げに来るユズを吹き飛ばした。
それと同時に、間合いが離れてしまう。
(離れた、これでイルテンは構える)
構えは鶴の構え、距離も離れていたのだ。
ユズが近づけない形を作った。間合いを詰めた瞬間、ミドルキックからのコンボ。
ユズのライフを削って勝負ありだ。
(さて、どうする?時間はそれほどないぞ)
戦いは制限時間が決まっていた。
このままいけばユズのライフが、イルテンよりも少ないので判定でもイルテンが勝つ。
だがカウンターを喰らってしまえば、コンボを繋がれて負けが確定するだけだ。
杏那は難しい顔で、画面を見ていた。
だが、杏那は突然画面のユズを走らせた。突撃だ。
もちろん、謙信はノーモーションでキックを入れてきた。
しかし謙信は直前にガードを入れて、ハイキックを凌いだ。
(防いだ、だが……コンボは途切れない)
ユズの足がギリギリで止まり、ガードが間に合う。
だが、イルテンのキックのコンボは終わらない。
切れ目のない攻撃で、ほぼノーモーションで打ち込んできた。
だけど、杏那は冷静だった。途中の攻撃、一つのコンボの切れ目の瞬間にしゃがんだ。
(しゃがんだ、そうか)それはコンボの途中にある上段攻撃。
ユズがしゃがむと、上段のキックが空振りした。そして次の瞬間、ユズの一発のパンチが入った。
起死回生のパンチは、コンボの動きを止めた。
(パンチ、ただのパンチか)
攻撃をなにか入れれば、コンボは切れるのだ。
そして次の瞬間、動きが一瞬だけ止まったイルテン。
それを見逃す杏那ではない。ユズにラッシュを使わせると、コンビネーションに繋いだ。
そして、形成は一気に逆転した。
カウンターで、ダメージの跳ね上がったコンビネーションでイルテンは倒れた。




