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決勝戦に出る二人が決まり、ギャラリーが湧いていた。
男が大多数をしめる中、女性ながら初出場で決勝にたどり着いた杏那は注目を一気に集めた。
その一方で対戦相手の謙信は、一ポイントも失わないので完全勝利もかかっていた。
五分間のインターバルの後、決勝が始まることが決まった。
俺は席に座る杏那を、見ていた。
「強い、あんなに……」
「決勝に謙信が来ることは、十分に予想できた」
「和成、どうすれば?」
「イルテンは、二つの構えを駆使して戦う。構えをしている瞬間は、攻撃が早いがガードはできない。
そこを上手くつくことが、唯一の戦い方になる」
構えから繰り出される攻撃は、ほかのキャラのどの技よりも速い。
その分、ガードができないというデメリットはあるが。
「でも構えをしてしまうと、早いのよね……攻撃」
「そうだ。攻撃態勢に入っているから、モーションもある程度カットされる」
「じゃあ、攻撃を入れても潰されるんじゃないの?」
「通常はそうだな。
俺の『ファン・ジャンチー』は、攻撃をガードしきって割り込める技を見てカウンターを入れる。
だが、ユズはキャラ的に見て相性が非常にいい」
「非常にいい?」
「そう、さっきのユズがやろうとしていたことだ」
それは、ひとつ前のイルテンとユズの戦い。
イルテンが全勝した準決勝の戦い。
「あの戦いで、やろうとしたこと?」
「杏那はよく俺の家で、祈里のイルテンと戦っていたよな」
「戦っていたわ。祈里ちゃん、たまに飽きたら使っていたし。
でも、あの時だって全然あたしは勝てなかったし」
「祈里も、イルテンは謙信ほどではないが強い。
それでも使う技は、ある程度限られる。鶴の構えでも、鷹の構えでも。
よく、祈里が使ってきた攻撃を思い出してみろ」
「攻撃を?」
「使われて、負けた技を……」
「あっ、そろそろ時間ね」
そう言いながら、杏那は呼ばれて俺はゲーセンから離れた。
これ以上、俺は話すことはできない。
後は、前を歩く杏那が気づくかどうかだけだった。
ゲーセン内は、異様な活気があった。杏那の隣に、謙信が座ってボルテージが上がる。
「よろしくお願いします」謙信は相変わらず、低姿勢だ。
「絶対に負けないわよ」
杏那は笑っているように見えても、険しい表情を見せていた。




