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謙信の『リアルファイター』を生で見るのは、久しぶりだ。
そして、相変わらず『チェ・イルテン』を使用していた。
黒いライダースーツに、ヘルメット姿のテコンドー選手。
上級者用のキャラで、使いこなすのにかなりのテクニックが求められる。
俺と杏那はギャラリーとして、戦いを見守っていた。
「チェ・イルテンかぁ、構えがあるやつだっけ?」
「そう。二つの構え、鶴と鷹の構え。コンボの派生も違う」
「鶴を見たら中距離で、鷹が接近戦でしょ。
昨日も一回戦ったし、そんなに強かった印象はなかったのよね」
「謙信のイルテンは、中でも別格だ」
俺は知っている、謙信は最強のイルテン使いであることを。
キャラクター使用率でも、下位の部類に入るイルテン。
ただ、使っている人間は逆に上位の人間が多い。
特にここ塩尻界隈では、謙信の操るイルテンが他の誰が使うイルテンよりも強いのは常識だった。
ゲーセン中央の、ゲーム画面に戻ろう。
謙信が素早く構えを変化させて、相手を翻弄していた。
相手が使っているのは『ユズ』、リアルは男だが杏那と同じキャラを使っている。
ユズは近距離を得意とするので、接近戦で手数のスピード勝負をしようと試みた。
だが、近づくタイミングで投げを入れていた。
(やはり、上手い。相手の動きを利用して攻撃を変える)
投げを使われると、今度は近づくのにためらう。
鶴の構えにスムーズに切り替えて連続技を入れる。ユズは中距離になると、不利だ。
キックを使っても、鶴の構えの多彩な蹴りでユズからポイントを奪う。
「近づいても封じるし、離れると不利」
「そう、万能な戦いをする。そして謙信は、コンボ入力も正確だ」
「確かに」
謙信は難しいボタンの入力が、正確で早い。イルテンはコマンドが複雑になっている。
構えが複数あるから、コマンドもほかのキャラより多いし、長いコンボもあって難しい。
それでも、謙信にはコマンド入力ミスが全くない。
「やつは、間違いなく強い」
そして、イルテンはいとも容易くストレートで勝っていた。
そう、謙信は店員の実況通りに準々決勝、準決勝を一ポイントも失わずに圧勝で勝ち上がった。




