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塩尻は松本よりもさらに田舎だ。駅前のロータリーも、なんだか殺風景だ。
ビルのようなものは、ほとんどなく飲食店ぐらいがポツリと見える程度だ。
時間はまだ三十分あった。なので、俺は歩くことにした。
最もさっきの電車の後を逃すと、次は一時間かかるから一気にギリギリになるが。
塩尻の道路を、二人で歩いていた。
多分、ここに来たのは二回目だ、そのうちの一回は『リアルファイター』の店舗大会。
だから場所はわかっていた。そして、商店街のところでベンチを見つけた。
「結構歩いたな」
「なによ、もう疲れたの」
「お前みたいに体力馬鹿ではない」
「女の子に、そういうことを言わないでよ!」
元気な杏那をよそに、くたびれた顔の俺はベンチに座っていた。
「どのみち、後数分で着くだろうし。
ほら、少し奥にある白くて大きな建物あるだろ。あそこの裏だから」
「時間は後十五分ね、確かに余裕だわ」
「それより緊張していないか?」
「し、してないわよ!」
そう言いながら、杏那も俺の隣のベンチに座っていた。
「まあ、それならいいんだけど」
「和成……今日もあたしのために付き合って……」
「ああ、いや、その……飯食うか」
「え?」杏那は首をひねった。
「試合の開始は十一時、ただ参加者が少ないから二時間ぐらいで終わる。
それまでに、腹が減るだろ」
「少ないって?」
「店舗で集まり悪いから、ネットで募集するくらいだから」
「そんなに少ないんだ」
「まあ、松本の規模がゲーセンの大きい方だし。
確か今回の参加者は十人ほど。大体が塩尻の人間」
「ねえ、それって……こっちで店舗大会を参加したほうが楽じゃない」
「まあ、楽なところもある」
そう言いながら、俺は弁当を広げていた。
杏那も興味津々で、俺のお弁当をじーっと見ていた。この弁当は、俺の母親の手製だ。
「なんだよ、また卵焼きが欲しいのか?」
俺の言葉に、杏那が食い気味に頷く。
しょうがないなと、俺は箸で杏那の口元に卵焼きを入れてあげた。
それを、うまそうに食べる杏那だった。




