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あれから十五分後、塩尻行きの電車が来たので電車に乗っていた。
日曜の朝だけに、それほど人は乗っていない。
電車の椅子に座り、景色をぼんやり見ていた。
「今日は体調どうだ?」
「問題ないわ」
「そうか」この電車の座席は、向き合う形配置されていた。
だから俺と杏那は、自然と向き合っていた。
なんだ、これってよく見たらデートっぽくないか。お互いに私服だし。
「ねえ、和成」
「なんだよ?」ちょっと声が上ずってしまった。
「なんか、怒っている?」
「いや、怒っていないし。どうした?」
「和成の横顔が、あたしのパパに似ているけど……」
「杏那のパパ?」
俺は詳しいことは知らないが、杏那に対しむちゃぶりをしていることは知っていた。
「杏那の父親ってGASOのゲームプログラマーだろ。どんな人なんだろ?」
「一言で言うと、真面目な人よ」
「真面目?」
「真面目で明るくて、ヒゲが生えているの」
「俺、ヒゲなんか生えていないし」
あごの辺りを指で触る。毛がそんなに生える年齢ではない。
「そういえば、長野に住んでいるのか?」
「そう、長野市」
「だからさっき長野で……」
「それを言わないでよ!」
杏那が叫ぶ、一応ここは電車内だぞ。
客はあまりいないが騒ぐのを、やめさせておこう。
「まあ……長野の本戦に行くためにも、今日の塩尻は勝たないといけない」
「でも勝てるの?」
「いや、絶対勝つんだ!」
俺は杏那にはっきりと、言い切っていた。




