011
磯貝 杏那は本当に何も知らない。
今日初めて、ビデオゲームをやったような少女だ。
だから、いきなり攻撃を教えるのは難しい。
3D格闘ゲームは、移動がかなり重要だ。
間合いの取り方が、格闘ゲームの攻略の全てといってもいい。
「いいや、しばらく動きを教えるよ」
「動き?また?」
「実はね、さっき教えたガードボタンといくつかレバーを加えていろんな動きができるけど……」
「何?バックステップでもすればいいじゃない!」
「まあ、そういうわけには行かない技もあるし。ガードボタンを押したまま上にレバーを入れて」
「えー、仕方ないわね」
文句を言いながらも杏那が操作して、画面内のユウトがジャンプした。
「ジャンプ、下段攻撃をよけられる。ジャンプから発生する技もある。
まあ3D格闘でジャンプが邪道という言われもあるけど、コマンドがあれば使ったほうがいいし。
あとはガードを押しながら、下にレバーを入れると……」
「しゃがむわね!」
「正しくはしゃがみカード。これが下段攻撃を防御できる基本的処理。
但し、上段攻撃もよけられる。こっちはよく使うから覚えたほうがいいかな」
「それはいいから、攻撃を教えてよ。何するの?」
しゃがんでいるユウトに、俺はジョニーで下段キックを見せた。
ボクサーで、足を出して蹴るのも珍しいのだが。
そしたら、防御が解けたのかユウトがダメージを喰らっていた。
「何するのよ、痛いじゃない」
「ご、ごめん。でも、ちゃんと防御しないと……」
「意外と防御は、難しいのね」
「ちなみに立ったまま防御すると中段攻撃を、ガードするから。押してみて」
「押したわよ」
杏那がボタンを押すと、画面内のユウトが身構えた。
俺のジョニーがボディブローを打つ、しかし防御でダメージを受けない。
「こうやって、ガードすればダメージを受けない。上のライフも減らない」
「防御はこれぐらいでいいでしょ。それより、攻撃を教えなさい」
「いや、まだ攻撃ボタン禁止。しっかりガードを練習しよう」
俺の言葉に、杏那はふてくされた顔を見せた。
俺はジョニーを使ってボディブローを打つうちに、時間切れになった。




