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自転車を押している俺と、俺の隣にいる杏那は昼の歩道にいた。
周りはビルやいろんなお店も見える場所だ。
この時間帯のファーストフードは、かなり自転車でいっぱいだ。
今日は快晴、秋晴れで空気も気持ちいい。
午後、食事を終えた俺たちは道を歩いていた。
弁当の卵焼きを、約束通り杏那にあげた。杏那はうまそうに食べていた。
よくよく聞いたら、朝は食べられなかったそうだ。
今は、そのおかげか顔色がいいようだ。
「ちゃんと飯を食えって、言っただろ」
「緊張しちゃって……なんだか食事が喉を通らなくて」
「だから倒れるのだよ!」
俺はすこし、怒った口調で言った。
杏那も分かっているようで、申し訳ない表情を見せていた。
「食事もとったし……大会前に、最後空いていたら練習するぞ」
「そうね」
「でも、初心者台は空いていないだろうから、他のビデオゲームに空いている所に座る」
「なんで?」
「レバーを、ガチャガチャ回しながらボタンを押すイメージをつける。
言ってしまえば、最後の調整ってやつだ」
「本当に、ありがとうね。今まで」
「何を言っている、今日で終わりじゃない。
それよりも緊張しているから、少しでもレバーに触れておけ」
「うん!和成」
杏那の顔が、やはりこわばっているように見えた。
そんな杏那に、俺はある話をした。
「大丈夫だ、お前はいつもの強さで戦えばできる。
それに俺も他にいろいろと手は考えてある。だから心配するな」
「和成……」杏那はまだ緊張しているが、心なしかほぐれていた。
「ほら、着いたぞ」
そして、俺たちの前には大会会場である『ゲーセンクラブ松本』の赤い建物が見えてきた。




