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歩美とにらみ合うが、直ぐに歩美は帰っていった。
俺もアーケードモードをクリアして、杏那と一緒に初心者台へ。
バイトを終えてゲーセンに来た杏奈は、時折疲れた表情を見せていた。
「大丈夫か?」
「平気よ、お金入れたし」
たまに俺の言葉に対する反応が、杏那は遅い。
疲れているのか、ボーっとしている様子だ。
夜九時まで普通に仕事して、ゲーセンで練習。
帰ってからも、家の身の回りのことをしているらしい。無理もないだろう。
それでも迷わず『ユズ』を選んで、ゲーム画面に集中していた。
「今、頑張らないと」
初心者台のそばに、ポスターが見えていた。
それは店頭大会のポスター。なにせ明後日の午後三時が、本番開始だ。
一応隣の2P側に俺は座っているが、杏那のくたびれた表情が気になっていた。
「教えて、ドリミカルコンボ」
「ああ、コンボはわかるよな」
「うん、でも二つあるよね」
「このコンボは、同じ名前で二つある」
「キャンセル技では、ないんでしょ?」
「キャンセルでなくても、派生から攻撃パターンが変わる技だ」
「派生?」杏那が首をかしげていた。
「コンボっていうのは、決められたモーションで動く。
上級者ともなれば、そのモーションの頭を見ただけでガードを的確にする」
「それはわかるけど……」
「このコンボは大きな特徴がある。途中までは全く同じ動きをする。
そして、後半のボタン四つが違うのがわかるよな?」
俺はそう言いながらコンボ表を見せた。ゲーセン筐体についている技のリスト。
杏那はそれを見て、頷いて理解していた。
「うん、違う」
「でも、モーションは全く同じで二種類の技がある。つまりこれが二択だ。
キャンセルはキャンセルした時点で、実は攻め側守り側いずれも攻撃ターンは変わらない。
まあ、キャンセルを入れるのだから攻め側が有利になるのは当たり前だが。
これは、相手に主導権を渡せないようにする技だ。
完全な二択ならガードを惑わせることもできる。最後の一発は強打で振り切る。
これがガードされると不利になる技だが、二択を合わせないテクニックも必要になる」
「そう……なのね」
「まあ、まずはコンボ入力のテスト。
もうアーケードの雑魚でも、問題なく普通に勝てるだろ。とにかくコンボをいれまくって覚えてくれ」
俺はそう言うが、杏那は僅かに遅れて返事した。
時折見せる疲れた表情は、やはり気にせずにはいられない。
「大丈夫か?」
「大丈夫、練習させて」
最後は小さな声で、訴えるように言っていた。




