010
百円をいれると、ゲーム画面が始まる。
最初は練習も兼ねて、2P用にさせていた。
初心者あるあるだが、2P用にすると一戦しか戦えないが五本制だ。
一度相手のライフを減らすと、一ポイント。五回相手のライフをゼロにすれば勝利だ。
おそらく最初からコンピューターと戦わせても、難しいと判断したからだ。
「ねえ、和成も選べてなんかずるくない?」
「俺は、師匠だ。ちゃんと師匠の言うことを聞いたら、お前は強くなる」
「本当に?」その言葉に目を輝かせる杏那。
「まあ、お前の姿次第だな。とりあえず、適当にキャラクターを選んでくれ」
ゲームの画面には、二十八人の顔が出てきた。
それを見て、杏那は首をかしげて戸惑っていた。
「どれが強いの?」
「わからなかったら、そのまま赤いボタンを押せば、だいたい強いキャラになるから」
「わかったわよ」杏那が選んだのは『ユウト』、それは主人公キャラで空手家の男。
俺は、そのままユウトのライバルキャラであるボクサーの男を選んだ。
「あたしが、空手家のやつ?」
「名前は『ユウト』な、一応覚えておいてくれ。右側に居るのが、俺の選んだキャラ『ジョニー』」
「ボクサーね、なんかそっちの方が強そうじゃない?」
そんな俺と杏那の画面には、ライフゲージ。
ライフゲージの下には五つの四角がある。これが俗に言う五本制だ。
「ゲーセンのゲームでは、当たり前だけどチュートリアルみたいなのはない。
つまり、やりながら覚えないといけないわけだ。基本的なことを、どうやら何も知らないみたいだから。
まずは基本中の基本、移動を勉強するか」
「移動?レバーで動くんでしょ。簡単じゃない」
「レバーを前に倒せば前、後ろに倒せば後ろ。
当たり前だけど、こうやって、細かく前に素早く入れると……」
「前にダッシュした」
俺のジョニーが、杏那のユウトにダッシュして近づく。
「レバー操作は、後ろに入れればバックステップだし」
「本当ね、こうやって動くのね」
「上に二回、素早く入れると……」
「あっ、奥に回り込んだわ」
「そう、そうやって動かすんだよ」
「へえ、便利ね。下に二回、動かすと手前にいくのね」
杏那はいろいろ移動をするが、たまに俺のジョニーをパンチボタンで殴って攻撃していた。
避けるつもりはないので、攻撃は当たるわけだが。
制限時間99秒、なくなった瞬間にノーダメージのユウトが勝利した。
「まあ、大体わかったな」
「そうね、ボタンもわかったし」
たまにチョコチョコと、ボタンを押したがる癖があるようだ。
レバー操作も、被せ持ちだけどちょっとガチャガチャしていた。まあ初心者だから仕方ないか。
「じゃあ、しばらく移動をするか」
「いいわよ、なにか派手な必殺技とか教えて」
杏那は少し興奮気味に、隣に座る俺に言ってきた。
磯貝の大きな胸が、俺の肩に当たったような気がした。




